鈴木憲和農水大臣は、2025年に放出した政府備蓄米21万トンの買い戻し手続きを、9月中に始めると表明した。放出時の入札ではJA系が9割超を落札したが、買い戻しには5年の猶予がある。なぜ政府は、わずか1年半で買い戻すのか。元農水官僚で武蔵野大学国際総合研究所研究主幹の山下一仁さんは「食料安全保障や農家救済のためではない。高騰で積み上がったJAの在庫を政府が肩代わりし、コメ価格の下落を防ぐ政策だ」という――。
政府備蓄米の早期買い戻しなどを鈴木憲和農林水産相(中央右)に求める自民党の水田農業振興議員連盟の議員ら=2026年7月14日、同省
写真=時事通信フォト
政府備蓄米の早期買い戻しなどを鈴木憲和農林水産相(中央右)に求める自民党の水田農業振興議員連盟の議員ら=2026年7月14日、同省

なぜ「備蓄米の買戻し」を急ぐのか

鈴木憲和農水相は9月1日の記者会見(9月1日の記者会見)で、2025年に放出した政府備蓄米21万トンの買い戻し手続きを9月中に始めると表明した。価格は見積もり合わせを行い、随意契約で決めるとしている。

市場から隔離して米価を維持するためである。物価対策に逆行するとして難色を示していた官邸も、「米価が暴落して農家経営に重大な影響を与える」という鈴木憲和農水大臣やJA農協、さらには自民党農林族議員の圧力に抗しえなかった。

米価浮揚対策としてだけではなく、買い戻し方法にも大きな問題がある。

まず、昨年集荷業者(ほとんどがJA農協。過去3回の落札率はいずれも9割超)に放出したコメの平均落札価格は2万2477円、これに対して現在の25年産米の価格は3万5451円(令和7年産米 出回り~7月までの平均額)。この価格で買い戻すとなると、売却価格との差額は筆者試算で約450億円になる。

実際の買い戻し価格は見積もり合わせで決まるため、現時点でこの負担が確定したわけではないが、買い戻し費用を負担するのは納税者で、高値での買い戻しによって利益を受けるのは主にJA農協である。買戻しの期限は「5年以内」と猶予が設けられていたのだから、せめて落札価格の水準に下がるまで待つべきだったのではないか。

政府は、備蓄米の放出によって在庫が約32万トンまで減少したため、標準とする約100万トンへ計画的に戻す必要があると説明する。しかし、足元では民間在庫が回復し、2026年産の生産量も増える見通しだ。価格が高い時期に21万トンを急いで買い戻す必要はない。

また、国の会計法では競争入札が原則である。これによって、国が財産を売るときは最も高く、買うときは最も安く、入札した業者が落札できる。一方、今回の買い戻しは一般競争入札ではなく、買い戻し特約付きで備蓄米を落札した事業者から見積もりを取り、価格を決める随意契約で行われる。今回の契約相手は、これまでの落札実績からみてJA農協だ。

つまり、本格的に新米の集荷が始まる前に、JA農協が積み上げた在庫を政府が肩代わりするのだ。筆者には、買い戻し特約を利用した農水省とJA農協の出来レースとしか思えない。