資本主義の本場・アメリカで、社会主義的な政策を掲げる政治家が支持を広げている。民主党の候補者選びでは、富裕層への増税や国民皆保険制度の創設などを掲げる急進左派が、党主流派の有力候補を相次いで破った。国際ジャーナリストの矢部武さんは「背景には、物価高や生活苦への不満がある。トランプ批判に終始してきた主流派より、労働者のための具体策を掲げる候補が若者の心をつかんでいる」という。かつてアメリカで嫌われた社会主義が、なぜ受け入れられ始めたのか――。
共和党議員政策会議に出席したドナルド・トランプ氏
共和党議員政策会議に出席したドナルド・トランプ氏(写真=Office of Speaker Mike Johnson/PD-USGov missing SDC copyright status/Wikimedia Commons

嫌われた「社会主義」が若者に広がる

トランプ大統領の強硬な政権運営に歯止めをかけるため、11月の中間選挙で議会の多数派奪還を狙う野党・民主党だが、現在、内部ではかつてない異例の事態が巻き起こっている。本選に向けた予備選で、「民主社会主義」を掲げる急進左派の候補が党の主流派が推す有力候補を次々と破り、急速に勢力を拡大しているのである。

かつて米国では、社会主義は「自由や個人の権利を奪う危険な思想」として共産主義とともに深く嫌忌されていた。しかし今、民主党の進歩派(急進左派)が自由や民主主義を尊重した社会主義的政策を掲げ、若年層や生活困窮層を中心に爆発的な共感と支持を集めている。

なぜ、このようなことが起きているのか。そして、彼らは党内の党穏健派や無党派層へと支持を拡大し、本選でトランプ政権を支える共和党を打ち破ることができるのか。

保守・穏健派が8割の州で「今年最大の番狂わせ」

8月18日のフロリダ州の民主党上院予備選の結果について、翌日のワシントン・ポスト紙は「今年最大の番狂わせ」と報じた。

富裕層への増税や国民皆保険制度の創設などを公約に掲げた急進左派のアンジー・ニクソン候補が、全国的な知名度を持つ穏健主流派のアレックス・ヴィントマン候補を大差で破ったからである。しかもフロリダ州は、キューバをはじめとする中南米の左派政権を嫌って米国に渡ってきた人が多く、州内住民の約8割を保守派と穏健派が占めているという。

同様のケースは相次いでいるが、8月4日には、ミシガン州の民主党上院予備選で、生活費の負担軽減や物価高対策、国民皆保険などを訴えた左派のアブドゥル・エルサイード氏が党主流派の対立候補を僅差で破った。

エルサイード氏は選挙戦で、「食料品をもう一袋買うことや家賃を払うことがこれほど大変であるべきではありません。税金も同じです。皆さんの納めた税金は誰かに爆弾を落とすためではなく、皆さんのために使われるべきです」と有権者に強く訴えかけ、支持を広げたという。

さらに7月にはコロラド州の民主党下院予備選で、民主社会主義を掲げた29歳のメラット・キロス氏が長年議席を守ってきたベテランの現職議員を破り、6月にはニューヨーク州の民主党下院予備選で、民主社会主義者として知られるマムダニ・ニューヨーク州市長が支援した3人の候補者がそろって勝利した。

急進左派の革新系候補が党内主流派の対立候補を次々と破っている背景には、どのような要因があるのか。