AIの使用で脳が衰えるかどうかは、使い方次第だ。脳科学者の茂木健一郎氏に、脳のアンチエイジングができる使い方を紹介してもらう――。

負荷の設計をして、より高度な判断に脳を使おう

AIを使うことで、人間の脳がどのような影響を受けるかということについてはさまざまな研究、考え方がある。しかし、何しろ現在進行形で発展していることなので、確定的なことを言うのはなかなか難しい。それでも、いくつか大切なポイントがある。

AIを使う人と使わない人、脳が老けやすいのはどちらか?  前者は自分で考えるのを怠けるので脳が老けやすい、そして後者は新しいツールに手を出さないので脳が老けやすい、という考え方もあるだろう。

AIは急速に普及したが、仕事・プライベートで一切AIを使わないという人はまだいる。AIを使う人と使わない人、脳が老けやすいのはどちらか? これは、多くの人にとっての関心事なのではないか。

脳の老化を避けて、アンチエイジングを図るうえで鍵になるのは、脳に対する認知的な「負荷」である。

脳は使うほどに、神経細胞同士をつなぐシナプス結合が強化される。血流も増加し、神経成長因子などの物質も分泌される。

AIを用いることによって、脳の認知的負荷が低下してしまうと、それだけ神経細胞のネットワークのつながりが弱くなり、老化が進むリスクがある。逆に、AIを用いて、脳の認知的負荷を高めることができれば、アンチエイジングの効果が期待できる。

AIがより高度な情報処理をできるようになると、その分、脳への負荷が低下する可能性があるのは確かだ。うまく脳の認知的負荷を高める使い方をすることが、アンチエイジングの鍵となる。
AIがより高度な情報処理をできるようになると、その分、脳への負荷が低下する可能性があるのは確かだ。うまく脳の認知的負荷を高める使い方をすることが、アンチエイジングの鍵となる。

新しいテクノロジーが登場することによって、脳に対する負荷が低下することは以前から知られている。実際、スマホなどでの変換の普及によって、漢字が書けなくなったという人は多いだろう。友人の電話番号を覚えていないという話もよく耳にする。

後で検索できるという条件で情報を提示すると、その記憶が低下するという「グーグル効果」も知られている。また、美術館で、絵の写真をデジカメで撮影しながら回ると、作品の細部を覚えていないという研究もある。これらはすべて、関係する情報処理に関する脳への認知的負荷の低下の結果として説明できる。

AIがより高度な情報処理をできるようになると、その分、脳への負荷も低下する可能性がある。例えば、英語のような外国語を習得しなくても、AIが翻訳するからいいという考え方もある。社会がそのような方向に動けば、多くの人が英語の習得に認知的負荷をかけなくなってしまうだろう。

母語に加えて、他の言語を「バイリンガル」と呼べる程度に習得した人は、認知症になる確率が統計的に有意に減るという研究がある。母語に加えて、外国語を処理する神経回路が発達し、それだけ脳の機能が強靭になるからだと考えられる。外国語でのコミュニケーションをAI任せにする人は、結果として脳の老化を招いてしまうことになりかねない。

(写真=iStock)

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