線路のない駅予定地で進む解体作業
乗用車やトラックが6台ほど止まり、重機が2台ほど出入りしては、あれこれと押しのけてゆく。「ずいぶん慌ただしい」と、米テキサス州ヒューストンに暮らすケビン・ブリアンドさんは、NBC系列局のKPRC2に、今春のモールの様子を語った。
ヒューストン北西部のノースウエスト・モール。2026年4月に始まった解体で、かつて大手百貨店メーシーズが入っていた売り場の内装がはがされ、やがて外壁も一面、また一面と崩されていった。1968年に開業したこのモールは、2017年に閉鎖されて以来、再利用のめどが立たないままだった。ブリアンドさんは、「何年も前に話は聞いたが、立ち消えになった。やらないんだと思っていた」とも振り返る。
ブリアンドさんが語るのは、高速鉄道計画の話だ。現場の解体を進めるのは、テキサス・ハイスピードレール・ホールディングス(旧テキサス・セントラル)。東京ドーム約4個分に相当する約18ヘクタールのモールの敷地は、米連邦鉄道局(FRA)により、同社が計画する高速鉄道のヒューストン駅の予定地として指定されている。モール解体は「また一歩前進だ」と、同社の広報は鉄道建設への意欲をにじませる。
車で4時間の2都市を90分で結ぶ計画
この高速鉄道の計画では、日本の新幹線の技術を導入し、ヒューストン―ダラス間の約390キロ(東京―名古屋間よりやや長い)を90分で結ぶという。だが、構想が生まれた2009年から17年が過ぎても、肝心の資金を確保する見通しは立っていない。日本の官民ファンドのJOIN(海外交通・都市開発事業支援機構)は、投じた約417億円の全額を損失処理し、すでに撤退した。米政府からの補助金も打ち切られている。
モールの解体は約1年で完了する見込みだ。だが、鉄道がいつ完成するのかは、まだ判然としない。
テキサス州の高速鉄道計画は、かつて日本が官民挙げて支えた新幹線輸出の看板案件だった。
路線を構想したのは、アメリカの民間鉄道会社だった。JR東海の支援を受け、一時は2019年の着工を目指し、2020年代前半には開業する予定だった。
両都市のあいだを車で移動すると約4時間かかる。車社会のアメリカといえど、気軽なドライブとはいかない長距離だ。両都市間は空路も使い勝手がよいとは言えない。そこで高速鉄道の出番となった。
出資の過半を担うのは、アメリカの民間投資家。それでも日本の国土交通省は、この事業を「日米インフラ協力の象徴的なプロジェクト」と位置づけた。やがて日本は、公的資金まで注ぎ込むようになる。

