新幹線輸出の看板案件に投じた417億円

日本の公的資金の投入は、2015年11月に国土交通相が認可した、JOINによる約49億円の出資に始まる。18年8月には、JOINがJBIC(国際協力銀行)と設立したSPV(特別目的事業体)を通じた約101億円が、そして19年3月には約57億円の追加投入が認められた。その後も拠出は続き、JOINがこの事業に投じた資金は、出資と融資を合わせて約417億円にのぼる。

ヒューストン側の駅の青写真は、2018年には描かれていた。米不動産専門ニュースサイトのリアル・ディールによると、その構想はこうだ。ダラスから列車で着いた乗客は、駅の周りに並ぶ商業施設や飲食店、人々が集う広場へと歩き出す。車で来た人は、駅とつながる立体駐車場に車を止め、そのまま駅へ向かう。いま解体が進むノースウエスト・モールの敷地は、交通の結節点となり、高速鉄道の駅を中心とした高密度開発の拠点になるはずだった。

だが、日本の資金が入ったあと、計画は勢いを失っていった。アメリカの公的資金に頼らずに高速鉄道を造るという前提に、そもそも無理があった。

最高裁で勝訴した月にCEOが退任

事業主体のテキサス・セントラル(現テキサス・ハイスピードレール・ホールディングス)は、着工予定の先送りを重ね、21年としていた。その予定も、あえなく果たせずに終わる。

アメリカの非営利団体High Speed Rail Alliance(高速鉄道同盟)がまとめているテキサス高速鉄道計画の概要
アメリカの非営利団体High Speed Rail Alliance(高速鉄道同盟)がまとめているテキサス高速鉄道計画の概要(https://www.hsrail.org/texas-central/をキャプチャ)

税の滞納も表面化し、風向きは一段と怪しくなった。米テキサス州地方ラジオ局のKWHIによると、22年3月下旬に提出された裁判資料で、同社が10郡に対し、21年分の固定資産税と延滞金・利息の計62万ドル(約9800万円)超を納めていないことが明らかになった。

22年6月になると、同社のカルロス・アギラーCEOが退任を表明する。関係者を「共通の将来像でまとめられなかった」とビジネス向けSNSのリンクトインに投稿したが、退任の理由は明かしていない。取締役も去り、経営は外部のコンサルタントに委ねられた。皮肉にも同じ月、テキサス州最高裁は、地主が売却に応じなくても鉄道用地を取得できる土地収用権を、同社に認めている。同社は念願の勝訴を手にしたが、その経営体制はすでに崩れかけていたのである。

22年9月、テキサス州政治専門非営利メディアのテキサス・トリビューンが開いたイベントで、州の交通政策を担う要人たちが、計画は実現できるのかと問われた。州運輸委員会のブルース・バッグ委員長は、同社との接触について、「最後に連絡があったのは1年以上前だ」と明かした。

州下院運輸委員長のテリー・カナレス氏は、民間だけで高速鉄道を建設・維持するという構想は「数字が合わない」と指摘する。州上院運輸委員長のロバート・ニコルズ氏は、世界のどの高速鉄道も政府の補助に頼っていると強調するが、同社は公的資金は不要との立場を崩さなかった。