日本社会が停滞しているのはなぜか。解剖学者の養老孟司さんは「土地が狭くて人が多いのでがんばって働くのが資源だと思い込んでいるが、それは間違いだ」という――。(聞き手=つり人社編集部)

※本稿は、養老孟司、天野礼子『最後に自然の話をしよう』(つり人社)の一部を再編集したものです。

インタビューに答える解剖学者の養老孟司さん=2016年3月3日、神奈川県箱根町
写真=時事通信フォト
インタビューに答える解剖学者の養老孟司さん=2016年3月3日、神奈川県箱根町

「養老孟司の虫採り」意外な影響

次世代の自然離れに課題を感じている聞き手(つり人社編集部)が、数値化できない自然の価値をどう伝えるべきかを考えるため、昆虫採集を長年続ける養老さんにインタビューを実施。「価値を伝えるために虫採りをしているわけではない」と語った養老さんが示した、これからの自然と社会の関わり方のヒントとは。

――では、「日本に健全な森をつくり直す委員会(※1)」も含め、養老先生の活動が社会にもたらしたものについて聞かせてください。まず、ご自身が虫を採っていたことで周囲に影響があったことはなんでしょうか?

※1:2008年、養老さんが委員長、C.W.ニコルさんが副委員長、後述の天野礼子さんが事務局長となって立ち上げられたNPO法人。日本の森林を次代に生かすための政策提言やそれに付随する昆虫採集等のイベントを実施

【養老】やっぱり「社会の中での生活が人生の全てではないよ」と、他人にも自分にも意識させられたことですね。「あいつ何やってんだろう?」って。大学のとき、仲が悪い人に「お前は虫採ってりゃいいんだよ」とか言われていたから、僕が何に本気になっていたか周りもわかってた。虫を採っていたその内容が、というより、社会に置かれた人に「そこから外れても大丈夫だよ」というデモンストレーションになっていた。社会の価値観に異を唱えているわけです。それをわざとやっているわけじゃなく、無意識にやっているわけです。それを見て嫌がる人もいたね。

損得やお金だけで生きていない

――それは誰かにとって何かの救いになったのではないですか。どういう形であれ、自分以外の人間に影響を与えられるというのは「価値」なのではないですか?

【養老】それは、その価値を誰が感じているかということですよ。そんなことは、やっている本人は何も感じていないんだ。僕が虫が好きでいじっているんだから、仕方ないんだよ。「なんであいつ、いきなり走って出て行ったんだ?」って言われて、「外でヒヨドリがタマムシ食べてたんだよ」って答えは世間じゃ通用しないんだけど、そういうものです。

――天野礼子さん(※2)も、養老さんが「看板」として虫採りをしていてくれるから人がついてきてくれる、とおっしゃっていました。

※2:過去、長良川河口堰反対運動などに取り組んだアウトドアライター。現在は養老さんとともに「日本に健全な森をつくり直す委員会」を運営

【養老】それも天野さんの解釈であってね、本人は知ったことじゃない。やっぱり「損得やお金や人間関係だけで人間は生きているわけじゃない」ということを、みんなどこかで思いたいんじゃないのかな。そういう人がいると安心するというか。