シニアの働き方は多様になった。残る、移る、辞める……選択肢はかつてなく広がっている。同じ会社、同じ年収でも、進路によって手取りと幸福度には大きな差がつく。分かれ目はどこにあるのか。リタイアと老後マネープランに詳しい山崎氏が、自分らしい「辞めどき」の選び方を指南する。

【進路2】定年前に辞めて転職するなら
収入とやりがいのバランスを取る

目先の年収よりも「長く働けるか」が大事

定年を待たずに会社を辞めて転職するという選択肢も、もちろんあります。では、50代以降の転職市場は今、どうなっているのでしょうか。

厚労省の「雇用動向調査」(令和7年)によると、転職して賃金が1割以上減少した人の割合は、50代前半で28.3%、50代後半で30.6%、そして60代前半では47.6%でした。データを見る限り、やはり年齢が上がれば、転職で給料が下がってしまう確率も上がります。

しかし、希望もあります。60代前半のこの数字は、5年前の同調査より7.3ポイント改善しているのです。私もシニアの転職の相談に乗る際、かつては「給料が下がるのを前提に考えなさい」と言うのが当たり前でしたが、今はそこまで悲観する必要はありません。「即戦力の採用」に力を入れる企業が増え、シニアの転職市場は活況を示しつつあります。転職で年収アップを実現するチャンスはゼロではないのです。

もっとも、「年収が下がる転職=失敗」というわけでもありません。たとえば55歳で転職して給料が2割下がったとしても、そこから65歳まで正社員で働けるのなら、60歳から4割下がった給料で5年間働く場合よりも60歳以降に稼げる総額は多くなります。大事なのは目先の年収ではなく、年収×年数の「面積」です。

よりよい働き方を求めて転職するなら、転職先企業の見極めが肝心です。就業時間、評価や賞与の制度、退職金制度、休暇の取りやすさ。転職にあたって見ておくべきポイントは、人によって違います。転職を何度か経験している人は、「このあたりを押さえておきたい」というツボがある程度わかります。しかし、50代を迎えても転職経験がない人には、その判断が難しい。長年勤めた会社が60歳定年だからといって、「65歳定年の会社に逃げよう」という安易な発想で転職を考えるのは、正直なところおすすめできません。また、転職先で新たなローカルルールを覚え、まったく違う企業文化への適応に苦労するリスクもあります。

では、ベテラン社員が転職を成功させるにはどうすればいいか。知り合いの紹介、いわゆる「リファラル」が、実態としてはポピュラーな経路です。

ただ、50代で同年代からの紹介に頼るべきかは悩ましいところです。仮に役員クラスの知人に引っ張られて入社すると、当然、期待値は高くなります。期待に応えられなければ、本人にとっても紹介した側にとっても悲劇です。

紹介での転職がうまくいきやすいのは、期待される役割が明確な場合です。たとえば大手IT企業でエンジニアをしてきた人が、中小企業の社長をしている地元の友人から「自社システムを立て直したいので、面倒を見てくれ」と頼まれるケース。何を求められているかがはっきりしていて、しかも自分の能力を活かせるとわかっているなら、双方にとってメリットの大きい転職になります。逆に、役割があいまいなまま知人の会社に入っても、その職場で歓迎されるとは限りません。

シニアに限らず、転職において大事なのは「自分で選んだ会社であり、自分が望んだ仕事だ」と言えるかどうかです。自分で決めた、という感覚を持てるかどうかが、年収以上に幸福度を左右します。

私と同世代の知人に、金融機関勤務から大学教員に転じた人がいます。給与は大幅に下がったそうですが、本人は「ストレスがなくなった」と笑顔を見せます。社内の人間関係に気を使う必要がなくなり、学生を教える仕事のやりがいは大きい。しかも大学は70歳まで働けるので、生涯賃金で見れば、前職で勤め上げるのと同程度になりそうだと言います。

(構成=堀尾大悟 撮影=石橋素幸)