「調べればわかる」という勘違い
――一方で、現在の環境科学では、調査によってデータ化され数字としてわかっているものだけで社会が進んでいくという側面があります。そのことへの懸念はありますか?
【養老】僕はよく「乱暴」と言うんだけど、それ以上言いようがないことでもある。何事も全部測るわけにいかないから。強いて言えば、やることに問題があるわけじゃなくて、「調べればわかる」と思っていることのほうに問題がある。
シミュレーションが重視される社会になってきた。シミュレーションが有効なのは経済と軍事なんです。経済は原料をこれだけ買い付けて、製品にして売れば利益がいくらになるかという計算ができる。でも我々が生きている世界はそれだけじゃないですからね。そのシミュレーションを環境の問題に当てはめてしまうのは自然が複雑すぎて無理なんだ。アユの放流もそれで、「その環境でどれくらいの数のアユを許容できるのか」とか、そんなことを考えないでやってきた。「放せば増えただろ」みたいな。小学生並みなんだ。
「がんばって働く」はやめるべき
――まさにそうで、最近の研究では、それが川の個体群として増えておらず、むしろもとからいた野生の魚を減らしているということがわかってきています。その点、工事を進めます、そのための環境アセスをやります。ということで進んでいく現代社会への養老先生の要望はありますか?
【養老】考え方を変えてほしい。虫のことくらい考えに入れてくれと。でも、今は商売の論理に入ってこないから絶対入れてくれないでしょう。それでずっとやってきてしまったから、いろんなものを潰しあっている。絶滅した生き物なんて、典型的ですよ。我々が元手なしに丸儲けできるのは、自然からものを獲るときだけでしょう。それが社会の一番の利益なんだと、いまの日本の社会は知らないというか、あまり言わない。土地が狭くて人が多いから、人が働くのが資源だと思い込んでいる。
だから頑張って働くんだけど、頑張るのはいい加減やめてほしい。頑張って金儲けされると自然が壊れる。そうじゃなくて、自然から手に入れるのが根本的な意味で一番安くて儲かる。自然から得られるもので、日本全体が気楽に生きて行けるような社会をつくるべきなんです。
