豊かな食事とは何か。ひとり暮らし歴70年、88歳のイラストレーターの田村セツコさんは「贅沢しない人生は、節約の人生でも、我慢の人生でもない。朝、300円の朝食を『おいしいな』と思えることが、心がちゃんと満たされている証拠だ」という――。
※本稿は、田村セツコ『最後までひとり暮らし』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
心も体も満たす300円のワンプレート朝食
朝、台所に立って、冷蔵庫を開けて、昨日の残りの野菜と、少し古くなったチーズと、卵を1つ取り出しながら、さて今日はどんなオムレツになるかしらと考える時間は、わたしにとって、十分すぎるほど豊かなひとときよ。
形は少しいびつで、火を入れすぎて焦げ目がついたり、中が半熟すぎたりすることもあるわ。でも、誰に見せるわけでもないし、レストランのような見た目を目指しているわけでもない。「まあ、こんなものね」と笑いながらお皿にのせるその気楽さが、わたしは好きなのよ。
ワンプレートに、そのちょっと変なオムレツと、家にある野菜を刻んだ簡単なサラダをのせ、パンを半分切って添えるだけで、立派な朝ごはんになります。
そこにコーヒーか紅茶があれば、もう何もいうことはないわ。
わたしの朝食代は、だいたい300円くらいかな。ホテルの気まぐれバイキングみたい。「おいしいな」と思いながら食べられる。
高いものを食べないから不幸なのではなく、安いものをありがたくいただけることこそが、実はとても豊かな状態ではないかと、わたしは思っているの。

