老いは、どのように近づいてくるのか。88歳でひとり暮らしを続けるイラストレーターの田村セツコさんは「部屋でひとり右肩を下にして、どさっと倒れたことがあった。そのときゆっくり、ゆっくりと起き上がり、立ち上がれたとき、ほっとした。それと同時に、老いるということが体でわかった」という――。
※本稿は、田村セツコ『最後までひとり暮らし』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。
ただ、「今日は今日」と思うだけ
年をとると、時間の流れ方が少し変わってきたの。
若いころは、先の予定がいくつもあって、そのあいだを縫うように生きていたわ。
締切、約束、打ち合わせ、次の仕事。
カレンダーはいつも予定で埋まっていて、仕事をしているあいだは、「仕事がなくなったらどうしよう」なんて、考えもしなかったわね。
でも、いざ仕事の予定がなくなったとき、正直、少し戸惑ったの。不安にもなったわ。
何を楽しみに生きるんだろう。どうやって毎日を過ごすんだろうって。
でも、すぐに気づいたのよ。
仕事がなくなっても、生活は続くわけよね。そして、生活があれば、十分なんだって。
予定がない日が続いても、それを「空いている」とは思わなくなったのよ。ただ、「今日は今日」と思うだけ。
朝、目が覚めて、猫がどこで寝ているかを確かめて、カーテンを少し開けて、光の具合を見る。それだけで十分。わたしの一日が始まるの。

