『聖闘士星矢』作者の車田正美さんが、元マネジャーらによる約46億円の横領被害を訴えた。発覚のきっかけは、東京国税局による税務調査だったという。なぜ税務調査で身内の不正が見つかるのか。税務行政に37年間携わった元税務署長の横井克宏さんが、“国税の裏側”を明かす――。(構成=ライター・小林義崇)
横領被害を訴え、厳しい表情で記者会見する漫画家の車田正美さん=2026年9月2日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
横領被害を訴え、厳しい表情で記者会見する漫画家の車田正美さん=2026年9月2日、東京都千代田区

発端は「東京国税局からの指摘」

2026年9月2日、漫画『聖闘士星矢』『リングにかけろ』で知られる車田正美さんが記者会見を開き、自身が代表を務める著作権管理会社など3社から、元マネジャーの男性らに計約46億円の資金を横領されたと公表しました。弁済を受けた約18億円を差し引いた約28億8600万円の損害賠償を求め、同日、東京地裁に提訴しています。

車田さん側の主張によれば、元マネジャーは3社の経理と対外交渉を一手に握り、少なくとも2018年から2024年にかけて、自分の支配下にある複数の会社の口座へ3社の資金を送金していたといいます。

手口としては、関連会社を装った会社を秘密裏に設立し、取引先からのライセンス料をそちらへ振り込ませてもいたそうです。なお、これらはあくまで原告側の主張で、被告側の言い分はまだ明らかになっていません。

私が注目したのは、発覚のきっかけです。産経新聞による報道では、2024年、東京国税局の税務調査で被害が明らかになったと、はっきり書かれています。国税OBとしては、ここまで明確に「国税局」と書かれるケースは珍しいと感じました。

もっとも、国税の調査で社内の横領が見つかること自体は、決して珍しくありません。公表されるかどうかは別にして、実はかなりあるのです。

記憶に新しいのは、大谷翔平選手の元通訳・水原一平氏の事件でしょう。大谷選手の口座から26億円を超えるお金が不正に送金されていました。この事件も、捜査には日本の国税庁にあたるアメリカのIRS(内国歳入庁)が関わっていました。構図としては、今回とよく似ています。

日本でも、北海道日本ハムファイターズの新庄剛志監督が、信頼していたマネジャー役の知人に約20億円を任せて失ったと、著書で明かしています。有名人がマネジャーや経理担当、ときには家族にお金を持ち出された話は、昔からいくらでもあります。

国税はまず「社長」を疑う

では、国税はどうやって横領に気づくのでしょうか。

税務署や国税局には、会社が取引先にお金を支払った記録が、さまざまな形で集まってきます。報酬の支払調書などの法定調書を通じて情報が把握されることもあれば、調査の過程で取引先から資料が集まることもあります。

その資料を精査すると、本来なら会社に入るはずのお金が、個人の口座に入っていたり、名前のよく似た別の法人の口座に入っていたりするわけです。入金先の個人や法人の申告書を見れば、そのお金が申告されていないことは一発でわかります。