1989年、シベリアの炭鉱労働者たちが起こした大規模ストライキは、ソ連崩壊を加速させた。その舞台となったクズバス地域が、再び深刻な危機に陥っている。ウクライナ侵攻後の欧州による禁輸などで石炭企業の8割が赤字となり、1700人以上の労働者が賃金未払いを訴えている。かつてソ連を揺るがした炭鉱地帯で、いま何が起きているのか。海外メディアの報道から、その実態を追う――。
炭鉱の壁にヘルメットとつるはし、ジャケット
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新生児9人が相次いで亡くなった産院

「来てください、いきんでるんです」

分娩中の女性が叫んでも、医師は取り合わない。「何をわめいてるの。まだ産まれないでしょう」。結局、彼女は立ったまま産んだ。落ちかけた赤ん坊を、清掃員らしき人が受け止めた。

2025年12月2日、ロシア・ケメロヴォ州ノヴォクズネツク。予定より早く産気づき、第1産科病院に運ばれたナタリアさんは、わずか900グラムの女の子を産んだ。いとこのアンナさん(仮名)が、ケメロヴォ州の地元ニュースサイトNGS42に語った話だ。

医師は、新生児集中治療室にいる赤ん坊について「体重は順調に増えている」と家族に伝え、安心させていたという。年末になると感染症の流行を理由に病棟が閉鎖されたが、それでも大丈夫だという医師の言葉は変わらなかった。1月には呼吸器の管が外され、抗生物質の投与も打ち切られた。

しかしその後、病棟は再び閉鎖された。しばし経って、電話口の看護師が素っ気なく伝えた。「赤ちゃんは亡くなりました。解剖後に引き取りに来てください」

この産院では、新生児9人が数日の間に次々と命を落とした。死因は捜査当局が調べており、ナタリアさんの家族は職員の過失を疑っている。

戦争のツケを払わされる炭鉱の町

この産院があるケメロヴォ州は、ロシアの石炭の半分を産出する炭田地帯であり、州に広がる「クズネツク炭田」を縮めた「クズバス」の愛称で親しまれてきた。

ケメロヴォ州は、モスクワから東に約3000キロ離れた、シベリア南西部にある。クズネツク炭田は、世界最大級の炭田だ。州の人口は京都府とほぼ同じ約250万人。ロシア独立系英字紙のモスクワ・タイムズによれば、住民の88%超が、炭鉱が中核産業となっている町に暮らすという。

だが、ウクライナ侵攻後、欧州による禁輸と世界的な石炭価格の下落が重なり、主要産業の石炭は販路を失い、採算が悪化した。税収が減った州では医療費の支出が減るほか、炭鉱では賃金の未払いが相次ぐ。産院で新生児9人が亡くなったのも、石炭不況で州の財政が苦しくなるなかでのことだった。

ウラジーミル・プーチン大統領が始めた戦争の代償を、炭鉱の町の住民が払わされている。

プーチン政権にとって、クズバスに鬱積する不満は無視できない。ソ連時代、この地の炭鉱労働者たちは、ストライキで国を揺るがした。