赤字の炭鉱を補助金で延命させるワケ

本来なら、ロシアの石炭産業は段階的に縮小してゆくはずだった。だが、戦争でその道筋が狂っている。

グセフ氏は、炭鉱と炭鉱の町が消えていくのは、脱工業化の過程で避けられない段階だと指摘する。これは、アメリカの旧工業地帯ラストベルトでも、ドイツの炭鉱地帯ルール地方でも起きたことだ。

ロシア国内にも、閉山を促す声はすでに出ている。ロシア発調査報道メディアのインサイダーによると、国営大手銀行VTBのアンドレイ・コスチン頭取は2025年、ロシア中央銀行の金融会議でこう述べた。「正直に言おう。なぜそんなに掘るのか。深い坑内掘りは非効率だ」

皮肉なことに、戦争は産業構造を転換する好機でもあった。2023〜25年、軍需産業はかつてない規模で働き手を求めた。2022年に自動車産業が苦境に陥ったカリーニングラード、カルーガ、サマラの各州では、組立工場を解雇された人々を軍需の機械工場が雇い入れている。仮に炭鉱を閉山していれば、多くの元炭鉱労働者は軍需産業に職を見つけるか、戦場へ向かっていただろう、とグセフ氏はみる。

だが、ウクライナでの戦争にかかりきりになったプーチン政権は、こうした産業の転機に目を向けることなく、競争力を失ったクズバスの石炭を今も補助金で支え続けている。炭鉱町の雇用への配慮に加え、石炭・金属大手のロビー活動があるからだ。その結果、州政府も連邦の財政支援への依存を強め、2024〜25年には連邦からの交付金が州の歳入の最大25%に達した。

赤字体質から目を逸らしたこうした先送りは、将来的に構造的危機が起きるリスクを高めるだけだと、同氏は警告する。

部品は中国頼み、止まったままの炭鉱

根本原因に手が打たれないなか、危機の影響は炭鉱労働者の給料にも及んでいる。

モスクワ・タイムズによると、ロシアのドミトリー・イスラモフ・エネルギー次官は2025年7月の上院の委員会で、坑内掘り・露天掘りを合わせて51の炭鉱がすでに操業を止めたか停止寸前の状態にあるとして、危機感を示した。2024年初めの時点で、国内の炭鉱は坑内掘り52、露天掘り127の計179カ所だった。

同じ月、ロシア語国際テレビ局のRTVIが訪れたのは、クズバスにある人口8万の町キセリョフスクだ。町に最後に残った坑内掘りの炭鉱、スピリドノフスカヤでは、従業員1000人近くが5月から給料を受け取れずにいた。地下には製鉄に使う良質な原料炭がまだ残っているが、埋蔵量の多い炭層はもう掘り尽くされたという。

鉱山内のトロッコ
写真=iStock.com/Alexey Dozmorov
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設備の更新もままならない。キセリョフスクのウラジーミル・スキルタ副市長は、地圧で機械が止まった経緯を、「まるで丸太に斧が食い込んで抜けなくなるように、採炭設備が締めつけられて動かなくなった」と語る。交換には、10億ルーブル(約19億円)規模の費用がかかり、部品は中国から取り寄せるしかない。採炭は2024年11月から再開できていない。

この炭鉱の石炭はもう要らないと言われても、炭鉱労働者たちは納得していない。イワンさん(仮名)は、RTVIの記者に憤りをぶつけた。「鉄道の配車係をしている知り合いは、どこも石炭だらけで列車が足りないと言う。戦争中なのに石炭が要らないとはどういうことだ?」

炭鉱労働者はかつてこの炭鉱で、月に最大30万ルーブル(約57万円)を稼げたと語る。市役所職員の月給でさえ3万ルーブル(約5万7000円)に届かない町での話だ。ロマンさん(仮名)は同局の取材に、「それが、ぱっと消えた」と嘆く。