売りたくても、もう買ってもらえない
州当局への連絡が途絶えたころ、同社は敷設に必須であるはずの鉄道用地の買収のペースを、あろうことか落とし始めていた。買い取りが縮小されると、すでに売り渡された郊外の家々は、住む人のないまま荒れていった。
コロナ禍のさなか、同社はヒューストンの北西郊外にあるホワイトオーク・フォールズという住宅地で、41軒の家を買い取った。家を取り壊し、線路の用地にするためだ。
地元テレビ局KPRC2は2024年8月、この住宅地で取材した様子を報じている。住宅地の南端は、高校と隣り合う形だ。高校から歩いてすぐのこの住宅地では、荒れた家の玄関にスプレーで書かれた下品な落書きが目についた。隣人によると、同社が買った家々には不法に住みつく人がおり、電気すら通っていない家に暮らしている者もいるという。
「家族も孫も、自分さえ安全だと思えない」と、この地区に住んで17年になるマリア・アルゾラさんは訴える。
KPRC2が報じた郡保安官事務所の記録からは、住民の不安は手に取るように伝わる。2020年からの5年あまりで、暴行や強盗などの疑いがある事件が実に20件も報告された。事件の多くは、同社が家を買った3つの通りに集中している。
ネスター・コルテスさんの家は、両側を同社の家に挟まれていた。数年前はまだ越してきたばかりで、同社に家を売る気にはなれなかったと、コルテスさんは振り返る。今は、この家を出たい。だが、引っ越しの費用が高すぎて踏み切れない。「売る気になったときには、(同社は)もう家を買っていなかった」と述べているように、中途半端な用地買収の犠牲になった。
必要区画のうち取得できたのは25%だけ
住宅地に空き家を残したまま、同社は2025年春、州議会で厳しい追及を受けることになる。用地の取得は進まず、資金計画さえ示せないためだ。
同年3月31日、州下院の公聴会で、同社の代理人アンディ・ジェント氏が証言した。一戸建て約500戸を含む、必要な約1600区画のうち、取得できたのはわずか25%だという。ニュースサイトのクロンによると、同社が確保していた土地の購入権も、一部はすでに失効していた。
翌4月になると、高速鉄道プロジェクトはアメリカの補助金と日本の出資という二つの公的な支えを、わずか9日のうちに相次いで失うことになる。このうちまず補助金については、米連邦政府が全米鉄道旅客公社(アムトラック)に交付していたものだ。
アムトラックは2023年にテキサス・セントラルと提携し、翌年からは計画を主導する立場にあった。州下院運輸委員会が同社への召喚状の発付を全会一致で可決してから11日後の4月14日、米運輸省は、高速鉄道計画の事前調査や計画策定などに充てるアムトラック向けの補助金6390万ドル(約101億円)を取り消す。事業費が当初の120億ドル(約1兆9000億円)から400億ドル超(約6兆3200億円)に膨らんだことを挙げ、建設計画は「非現実的」だと断じた。
ショーン・ダフィー運輸長官は、こう突き放した。「民間事業として提案された計画だ。民間が実現できると考えるなら、アムトラックと納税者に救済を頼らず、着工前の作業を自ら進めるべきだ」

