人工知能(AI)の発展をめぐる情勢は、明らかに質が変わってきている。発明家のレイ・カーツワイル氏は、著書の中で「2045年に人間の能力を人工知能が上回るシンギュラリティ(技術的特異点)が来る」と書いた。しかし、昨今の状況を見ると事態はもっと早く展開しそうだ。
すでに、囲碁や将棋、チェスなどのボードゲームでは、人工知能が人間の能力をはるかに上回っている。自然言語処理においても、次第にチャットGPTなどの大規模言語モデルが人間を凌駕し始めている。日本語と英語の間の翻訳においても、AIが実用で使えるレベルに達している。シンギュラリティは、さまざまな分野で徐々に起こり、広がり始めているのだ。
「なんでも翻訳してくれるAI時代」であるが、それでも英語力が必要な理由は何だろうか? AI翻訳ツールがあるから英語を学ぶ必要はない、と考える人もいる。一方、AIに頼ると致命的な誤訳をされる場合もあるから、人力によるチェックは欠かせないという考え方もある。何よりも、AIを通さない直接のコミュニケーションのほうが絆が深まるという見方もある。AI翻訳ツールが発達している時代に英語を学ぶ意味について、改めて考えてみたい。
脳科学的に見た英語力の核心は、話す能力、その前提としてのリスニング力である。もちろん、読み書きも大切であるし、大量の英文を読んでいないとうまく話すことはできないことも事実だ。英語力は本来、総合的なものだが、中でも話す能力はきわめて重要なのである。
ビジネスでもプライベートでも、英語を話すことで自分の考えを伝えられる。自分という人間をアピールできる。どんなに人工知能の翻訳能力が発達しても、自らの言葉で話している人の印象は圧倒的に強い。
会話をすることは、動物行動学的に言えば「毛づくろい」に相当する。会話という毛づくろいをすることで人と人との絆が深まり、信頼感も醸成される。日本語だけでなく英語でも毛づくろいすることで、知り合いの範囲も広がるし、入ってくる情報も深くなる。
英語力を鍛えることは、脳の神経回路の強靭化や、アンチエイジングにおいても大きな意味を持つ。英語に限らず、複数の言語を習得した人が認知症になる確率は統計的に有意に低下することが知られている。AI任せにしてサボっていると、脳が弱くなってしまうのだ。
英語学習に限らず、AIの発達を脳をさらに鍛えるために使うほうが、サボるために使うよりも賢い。もちろん、AIにどのような質問をするか(プロンプトを書くか)など、これまでとは異なる能力が求められる側面もある。いずれにせよ、AIを自らのパーソナルトレーナーとして能力を高める選択をした人が、これからの時代は輝くのだ。
よくわからない英文の日本語訳を表示させたり、自分の表現や発音をチェックしたり、レベルに合わせた教材を生成したりするなど、AIの発達によってこれからの英語学習はパーソナル化が進み、認知的な負荷の調整も高度になっていくものと予想される。AI時代には、英語学習の条件設定の高度化が進み、その新たな機会をとらえたビジネスパーソンが飛躍することだろう。
ところで、生身の人間として英語を話すことができることには、これからの時代に思わぬメリットがある。英語を話す利点は、人工知能という技術の本質を考えると見えてくるのだ。
ここから先は有料会員限定です。
登録すると今すぐ全文と関連記事が読めます。
- 広告最小化で快適な閲覧
- 雑誌『プレジデント』が最新号から読み放題
- ビジネスに役立つ学びの動画が見放題
- 会員限定オンラインイベント
検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます



