私は、お金を使うときにはそれはすべて「投資」であって、単なる「消費」ではないと考えている。そのような態度で臨むと、さまざまな物価が上がっている今日でも、有効にお金が使えるのである。

すべてが投資になるといっても、別に株を買ったり、値上がりが期待できるアイテムを求めたりするわけではない。むしろ、中長期的に見れば一番人間としての「リターン」が大きいものに投資するのである。

それはつまり、自分自身の「経験」である。経験にお金を使うことで、後にそれが何倍にもなって返ってくることが期待できる。

さまざまなことを経験することが自分の資産になるという考え方は、世間では比較的共有されていると思うが、そのことの本当の意味に気づいている人、そして実践している人はそんなにいないのではないかと思う。なぜ、経験に投資するという考え方が身につかないのかといえば、重要なポイントを見落としているからである。

第一に、経験に投資することは、単にラクだとか、楽しいという意味ではないということである。あるいは、たくさんお金を使って贅沢をするという意味でもない。むしろ、ストイックなくらいに学び続けるためにこそ投資するのだ。

旅行に出かけるにしても、有名な観光地を巡ったり、現地の美味しいものを食べたりするだけでは、経験への投資としては足りない。むしろ、脳科学でいうところの、「意識の流れ」にそって、旅行している時間全体を自分の糧とするような、そんな態度が求められているのである。

この世界は複雑であり、現代の仕事はますます予測がつかない状況の中で、選択や判断を求められるようになってきている。そんな中で、ビジネスパーソンとしても、生活者としても、豊富な経験を積んでいるということが自分の付加価値へとつながる。

人工知能の学習においては、「スケーリング仮説」という経験則が成り立つことが知られている。計算能力やデータが10倍、100倍、1000倍となるにつれて、新しい機能が「創発」してくるのである。チャットGPTや、クロードなど、今私たちが使っている大規模言語モデルは、どれも、このようなスケーリング仮説に基づいて成長してきている。

人間の経験についても、スケーリング仮説が成り立つ。さまざまな現場で、いろいろなことを経験することで、自分の判断や選択の能力を磨くことができるのである。

人工知能の学習データは、偏ったものではなく、さまざまな要素をまんべんなく反映したものであるほうが学習の結果が良くなる。同様に、私たち人間の経験も、できるだけバランスのとれたものであるほうが良い。

(写真=iStock)

検索時にプレジデントオンラインに関連する記事が表示されます