65歳で世界初の入浴剤を開発し、累計出荷数5億錠のヒット商品に育てた人がいる。コニカミノルタの元研究者、小星重治さん(82)だ。在職中に取得した特許は680件、世界初の技術は7つ。55歳で紫綬褒章も受章した“発明家”は、なぜ定年後、全資産をつぎ込み、新たな事業に挑んだのか、ライターの瀬藤美季さんが取材した――。
コニカミノルタの元研究者で、世界初の錠剤型の重炭酸入浴剤「HOT TAB」を生み出した小星重治さん
筆者撮影
コニカミノルタの元研究者で、世界初の錠剤型の重炭酸入浴剤「HOT TAB」を生み出した小星重治さん

きっかけはドイツの療養地「クアオルト」

2011年に発売した錠剤型重炭酸入浴剤「HOT TAB」は、ドイツの療養地「クアオルト」の温泉を研究して作られた。ドイツは国として自然療法を認めており、クアオルトの利用には公的健康保険が適用される。常駐する医師のアドバイスのもとで温泉に数時間入浴し、3週間程度かけて治療する。

小星さんはコニカミノルタで働いていた1999年に出張でドイツを訪れ、クアオルトに立ち寄った。短期の滞在だったにもかかわらず、長時間の移動による疲れが著しく和らいだという。

「日本人は自宅で入浴する文化がありますよね。クアオルトの温泉を家庭で再現できれば、日本のみんなを元気にできると思ったんです」

「薬用 HOT TAB WELLNESS」45錠15回分3960円
筆者撮影
「薬用 HOT TAB WELLNESS」45錠15回分3960円

湯船全体に重炭酸イオンの泡が行き届く

HOT TABの最大の特徴は、粉ではなく錠剤であること。錠剤の入浴剤が湯船の底に沈み、小さな泡として重炭酸イオンが発生する。湯船の底から湯面まで泡が行き届くことで、重炭酸イオンがお湯によく溶ける仕組みだ。後述するように、これには写真の現像に使う薬品を錠剤にする技術が応用されている。

HOT TABは、体が資本のアスリートたちからも多数支持されている。メジャーリーガーのダルビッシュ有選手は、2019年からHOT TABを使用しているとXで公言。小星さんの思いにも共鳴し、2021年から無料でHOT TABの広告出演を引き受けている。