長年連れ添った妻から熟年離婚を切り出された夫は、なぜ「突然」と感じるのか。離婚カウンセラーの森本由紀さんは「夫は家族のために働き、妻子に経済的な苦労をさせなかったと自負していても、妻は家事や育児を一人で抱え、何十年も我慢を積み重ねていることがある。夫には青天の霹靂でも、妻にとっては、ある一言が最後の一滴になっただけだ」という――。
頭を抱える妻と、ベッドに座る夫
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「俺のご飯は?」「お前に任せる」

美智子さん(仮名)は30歳で結婚し、出産を機に退職。その後は専業主婦として家事や育児を担い、2人の子どもを育て上げました。1歳年上の夫は大手企業で働くサラリーマン。収入は同年代の会社員と比べても高く、家族がお金に困ることはほとんどありませんでした。

しかし、美智子さんは結婚して間もない頃から、夫とは性格が合わないと感じていました。何を話しても夫はあまり関心を示さず、仕事を優先して家事や育児にもほとんど関わってくれなかったからです。

美智子さんが体調を崩して寝込んでいても、夫が気にするのは「俺のご飯は?」ということばかり。子どもの進学や学校生活について相談しても、「お前に任せる」と言うだけでした。子どもが不登校になったときも、美智子さんが一人で学校や支援機関を回り、対応に追われました。

「家庭や子どものことを一緒に考えてほしい」

そう何度も伝えてきましたが、夫が変わることはありませんでした。やがて美智子さんは、「どうせ何を言っても無駄」と思うようになり、夫に自分の気持ちを話すことをやめました。夫婦の会話はますます減り、子どもたちが独立する頃には、必要最低限の会話しかしない夫婦になっていたのです。

「老後の安心」のために我慢してきた妻

美智子さんは、離婚を考えたことがなかったわけではありません。しかし、踏み切ることはできずにいました。その理由について、次のように振り返ります。

「子どもが独立したら離婚しようと思っていた時期もありました。でも60歳近くになると気力も体力も落ちてきます。老後のお金のことを考えると、夫と一緒にいた方が安心だと思うようになったんです」

子どもたちが就職して家を出ると、美智子さんは夫の食事は用意するものの、自分は先に食事を済ませ、夫が帰宅する頃には自室で過ごすようになりました。休日も友人と出掛けたり、一人で買い物に行ったりして、できるだけ夫と顔を合わせない生活を送っていました。

夫が60歳を迎える頃、周囲では定年後も再雇用などで働き続ける人が増えていました。美智子さんも、夫がいつまで会社に勤めるのか気になっていました。

ある日、「いつまで会社にいるの?」と尋ねると、夫は「63歳までは会社に残る」と答えました。その言葉を聞き、美智子さんはひとまず安心しました。夫が毎日家にいる生活は想像できませんでしたし、もうしばらく仕事に出てくれるなら、その間は今の生活を続けられると思ったのです。

その頃、美智子さんは漠然とこんな老後を思い描いていました。

「夫が会社を辞めるときには退職金が入る。そのお金があれば、老後もそれほど切り詰めなくてもいいはず。夫とは趣味も合わないから、お互い好きなことをしながら暮らせばいい」