中国による尖閣諸島周辺への公船の侵入や、大規模な軍事演習など物理的な威圧が続いている。ICU教授のスティーブン・R・ナギさん(政治学・国際関係学)は「日本は、世界経済の“チョークポイント”である3つの代替不可能な先端素材生産においてほぼ独占的な地位を築いている。習近平はその焦りの裏返しとして、日本に対して覇権主義的な野心を剥き出しにしている」という――。
習近平国家主席
習近平国家主席(写真=首相官邸ホームページ/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

「目に見えない先端素材」を日本が支配

今、読者の皆さんがこの記事を読んでいるデバイス(端末)はスマートフォンでしょうか、軽量のタブレットでしょうか、それとも高性能なパソコンでしょうか。

まるで一つの魔法の板のように感じるかもしれませんが、実際には何千もの極小の部品が組み合わさった「パズル」です。

では、もしそのパズルの最も重要なピースを、たった一つの国が“独占”していたらどうなるか。もし、その国がピースを渡すのをやめれば、世界のハイテク産業という巨大な工場は瞬時にストップしてしまいます。

これはSF映画の話ではありません。現代のグローバル経済における現実です。そして、その現実のど真ん中にいるのが「日本」なのです。

近年、中国と西側諸国との間の緊張が高まっているというニュースをよく耳にします。中国の習近平国家主席は、人工知能(AI)、電気自動車(EV)、最先端の通信技術など、ハイテク産業において中国が世界の絶対的なリーダーになるという野望を隠していません。

しかし、巨大な経済力と軍事力を持つにもかかわらず、習主席は非常に悩ましいジレンマに陥っています。文字通り「手も足も出ない」状態なのです。もし中国が日本やアメリカ、ヨーロッパに対して厳しい経済制裁を科して攻撃しようとすれば、結果的に自国の最も重要な産業を壊滅させてしまうからです。

なぜ、このような状況になったのか?

その答えは、日米欧が主導して成功させた「デリスク(リスク低減)」という戦略と、現代のテクノロジーに不可欠な「目に見えない先端素材」における日本の圧倒的な支配力にあります。

「シートベルト」を締める戦略

長い間、世界は「世界の工場」としての中国に大きく依存してきました。しかし、政治的な緊張が高まるにつれ、一つの国に完全に依存することは非常に危険になってきました。もし対立が起きれば、中国が工場のドアを閉めるだけで、世界中が生活必需品すら手に入らなくなるからです。

一部の政治家は「デカップリング(切り離し)」を主張しましたが、現代のように複雑に絡み合った世界で、完全に縁を切ることはほぼ不可能であり、世界経済に大惨事をもたらします。

そこで日本、アメリカ、ヨーロッパは、より賢くバランスの取れたアプローチを採用しました。それが「デリスク(リスク低減)」です。

車に乗る時に「シートベルトを締める」ように、日用品の貿易は中国と続けながらも、最先端のハイテク部品の生産は、信頼できる同盟国へと慎重に移していくことを意味します。これにより、中国の工場に完全に依存しない、ショックに強い強靭なサプライチェーン(供給網)を築き上げました。