「日本が供給を止めれば世界が止まる」

このデリスク戦略の最大の要であり、中国が力ずくでトップに立てない最大の理由は、日本が「先端素材」において圧倒的な構造的優位性を持っていることにあります。

テクノロジーというと、私たちはiPhoneやテスラのEV、完成された半導体チップばかりを思い浮かべがちです。しかし、チップを作るには他国には絶対に真似できないほど純度が高く、複雑な化学物質が必要です。

ここにおいて、日本はほぼ独占的な地位を築いています。世界の「急所(チョークポイント)」となっている3つの素材と、それを支える日本の優良企業を見てみましょう。

1.フォトレジスト(魔法のインク)

半導体チップという「巨大で複雑な都市の地図」を光で描くための「魔法のインク」です。これがないと、スマホやAIに必要な最先端のチップは物理的に作れません。

この分野では、JSRや東京応化工業といった日本企業が世界シェアの70〜80%以上を握っています。例えば東京応化工業は、売上高が約1700億円(2023年12月期)を超える優良企業であり、長年の研究開発で他国の追随を許さない地位を確立しています[1]。日本企業は、この魔法のインクを何十年もかけて静かに改良し続けたのです。

「AI」の文字が入ったチップと、脳の形に光る電子回路
写真=iStock.com/BlackJack3D
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2.高純度フッ化水素(究極のスーパー洗剤)

極小の都市を作っている最中に、たった一粒のホコリや不純物が混ざるのを防ぐための「究極のスーパー洗剤」です。「99.9999999999%」のような限りなく100%に近い、気の遠くなるような純度が求められます。

この極めて特殊な洗剤は、ステラケミファや森田化学工業といった日本の化学メーカーが世界シェアの70〜80%を占めています。ステラケミファは売上高約300億円規模の中堅企業ですが、世界の半導体製造の命運を握る巨人です[2]。この完璧さを実現できるのは、日本の職人技と精密技術だけではないでしょうか。

3.フッ素化ポリイミド(曲がるスーパープラスチック)

画面が曲がる折りたたみスマホや、最新EVの車内にある美しいカーブを描くディスプレイに不可欠な「曲がるスーパープラスチック」です。

ガラスのように透明でありながら、プラスチックのように曲がり、さらに極度の熱にも耐えられるこの素材は、日本の住友化学などが世界シェアの90%近くを独占しています。売上高2兆円を超える総合化学メーカーの高度な技術力が、世界の最新ディスプレイを支えているのです[3]

折り畳み式スマートフォンのイメージ
写真=iStock.com/GeorgeRodd
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日本がこの3つの「代替不可能な素材」を握っているため、世界のサプライチェーンにはある絶対的なルールが存在します。それは、「日本がこれらの素材の供給を止めれば、世界のハイテク産業が青ざめる」という構造です。