※本稿は、佐藤拓己『アメリカ人を巨大化し、日本人を糖尿病・脂肪肝にする果糖の正体』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
無理な糖質制限が命を縮める
正常細胞はブドウ糖だけでなく、アミノ酸、脂肪酸、脂肪など、多様な物質を酸化し、エネルギーを得ている。このとき、酸素を使ってエネルギーを大量に生み出すことができる。
細胞ががん化すると、酸素を使わず、ブドウ糖を使った「解糖系」という代謝経路だけに頼ってエネルギー生産を行なうようになる。これは「ワールブルグ効果」(※1)と呼ばれる。この性質は、がんの研究のなかで中心的な課題だった。また治療への応用も検討されてきた。
がん細胞を兵糧攻めにするためには、ブドウ糖をがん細胞に与えないようにすればよいという意見が、一部のがんの臨床医を中心に今でも根強くある。がん細胞へのブドウ糖の供給を絶てば、がん細胞はエネルギー不足で死ぬだろう。これは、がん治療に糖質制限を用いる医師の理論的な根拠だ。
ただし、この方法は、2つの理由で現実的ではない。
「がん化」だけでは人は死なない
1つは、糖質制限をしても血糖値はほとんど下がらない。絶食を数日間持続すると、ほんの少し下がる程度だ。だからがん細胞の微小環境において、ブドウ糖の濃度は低下しない。たとえ低下してもほんのわずかである。肝臓が血糖値を一定に保つために、ブドウ糖を生産して血中に放出するからだ。
もう1つは、がん患者に糖質制限を用いることは、大変に危険だということだ。がんの患者が糖質制限をすると、急激にやせて体力を失い、かえってがんの悪性化を進める危険が大きい。がんの原発巣が縮小する前に、あちこちに転移巣が出現して、患者の命が危険になる可能性の方がはるかに高い。
がんは、無限に増殖する細胞だ。ただ、がんの原発巣が出現しただけでは人間は死なない。人が死ぬのは、がんが悪性化するからだ。悪性化すると転移や浸潤が起こり、じっさいに腹膜、肝臓、肺や骨などに転移するため、人間の命を奪う。
だからがんの悪性化を抑制できれば、がんとの長期間の共存も可能だ。悪性化さえしなければ、家族と一緒の生活を何年も続けることが可能だ。「糖質制限」を行って、がんの原発巣を縮小することに躍起になるよりも、「果糖制限」を行って、がんの悪性化を抑制する方策を取るほうがはるかに生産的だろう。


