果糖の摂りすぎががんを悪性化させる

がん細胞による果糖の利用は、転移を促進する。果糖ががんの悪性化を誘導することを実証した画期的な論文がある(図表1)。ヒトではまだ十分に検証されてはいないが、果糖制限ががんの悪性化を止める可能性は高い。

【図表1】果糖ばかりがガンを悪性化する【マウス】
乳がん細胞をマウスの乳組織に移植した。その後、15%のブドウ糖または果糖を含む水を自由に飲ませた。果糖によるがん細胞の増殖は、コントロール群のマウスでも見られた。ケトヘキソキナーゼ(KHK(※2))強発現マウスにおいては、果糖によって原発巣と転移巣の大きな成長が見られた。多くのがん細胞では、悪性化するとケトヘキソキナーゼの発現が増加する。ブドウ糖よりも果糖を用いたエネルギー生産をするようになるからだ。次世代のがんの創薬は、がん細胞に果糖を使わせないことが中心になるだろう。

最新の研究成果によれば、がん細胞は、2段階のエネルギー代謝の変容を起こす。

がん化:ブドウ糖だけをエネルギー生産に利用する。
悪性化:果糖だけをエネルギー生産に利用する。(※3)

がんの悪性化を止めれば、がん細胞との平和共存を可能にするだろう。このためには、がん細胞による果糖の利用を最小限にする必要がある。

果糖はGLUT5グルット5(※4)という膜タンパク質を通って体内に入る。GLUT5は腸管の上皮などに発現している。もしGLUT5の阻害剤があれば、それはがんの悪性化を抑制し得る。じつは、GLUT5阻害剤(※5)は、創薬科学の最もホットな部分だ。

膵臓がんや大腸がんの暴走を止める新薬

21世紀の創薬科学は、短時間で阻害剤を創製できる。ターゲットであるタンパク質がわかれば、コンピュータですぐに立体構造を推定できる。さらにこの立体構造に特異的に結合する化合物を、コンピュータ上で検索できる。だから、がんの悪性化を促進するタンパク質がわかれば、その日のうちに何種類かの阻害剤の候補を分子設計することは容易だ(図表2)。

GLUT5阻害剤は、マウスの脂肪肝や肥満を強く抑制する。やはり果糖が脂肪肝や肥満を引き起こしていたのだ。すると、糖質すべてを抑制しなくてもいいことになる。果糖だけを抑制すれば、生活習慣病はかなりの部分が抑制できる(図表2)。

【図表2】GLUT5阻害剤は肥満やがんの薬剤になる可能性
果糖は、小腸上皮細胞の細胞膜上にあるGLUT5を通って、体内に侵入し、種々の毒性を発現する。果糖の通り道であるGLUT5を塞いでしまう化合物が、GLUT5阻害剤だ。果糖制限は、GLUT5阻害剤とほとんど同じ作用を持つに違いない。果糖制限の効果は、すでにGLUT5阻害剤の創薬研究によって証明済みだ。

がん細胞が悪性化するとき、何が起こるのか? これはまだ正確にはわからない。少なくとも、果糖の取り込みの増加が、悪性化を決めている可能性は高い。がん細胞(とくに消化器系のがん細胞)が悪性化すると、果糖の取り込みを担うGLUT5が強発現するからだ(図表3)。

【図表3】果糖を取り込むほど生存率が低い【マウス】
膵臓がんは、生存率が最も低いがんだ。膵臓がんの多くは、果糖の取り込みタンパク質であるGLUT5を強発現している(A)。膵臓がんは果糖ばかりを取り込んでエネルギー生産していることがわかる。マウスにおいて、GLUT5が強発現している膵臓がんと、弱くしか発現していない膵臓がんでは、明らかに生存率が異なる(B)。通常、がん細胞は「かたまり」を作って増殖する。この「かたまり」の周囲に果糖を存在させないことが必要だと考えられる。

がんが悪性化すると、果糖だけを取り込んで、これをエネルギー基質とする異常なエネルギー生産を行なう。

GLUT5阻害剤は、ステージ4のがんを抑制する可能性が高まっている。じっさいに基礎研究のレベルでは、GLUT5阻害剤は、膵臓すいぞうがんや大腸がんをはじめとして、多くの悪性度の高いがんを抑制することが多数報告されている。