不動産バブルの崩壊や、若者の深刻な失業問題など、経済成長の鈍化で底なしの停滞に陥っている中国。何が原因なのか。ICU教授のスティーブン・R・ナギさん(政治学・国際関係学)は「習近平が、これまで自国に莫大な富をもたらした“IT優等生”を潰すという、取り返しのつかない行為を犯した結果だ」という――。
中国の習近平国家主席=2026年7月、中国上海市
写真=共同通信社
中国の習近平国家主席=2026年7月、中国上海市

日本と中国の劇的な「逆転現象」

最近、テレビやネットのニュースを見ていると、日本経済に関する明るい話題が目につくようになりました。「日経平均株価が歴史的な最高値を更新した」「誰もが知る大企業が、過去にない規模の大幅な賃上げを行った」といったニュースです。

長年、日本は「失われた30年」と揶揄され、経済が停滞し、給料も上がらない国だと言われ続けてきました。かつての勢いを失い、まるで時代遅れの恐竜のように扱われていた日本の大企業たちが、今、確かな足取りでついに息を吹き返しつつあるのです。

しかし、海を隔てたお隣の巨大な国、中国に目を向けると、状況はまるで鏡に映したように完全に逆転しています。ほんの数年前まで、「中国経済はアメリカを抜き、世界を支配する」とまで言われるほどの凄まじい勢いがありました。ところが今、中国は不動産バブルの崩壊、若者の深刻な失業問題、そして経済成長の急激な鈍化という、底なしの停滞に陥っています。

なぜ、これほどまでに劇的な「逆転現象」が起きてしまったのでしょうか。

経済の専門家はさまざまな理由を挙げますが、最も重要で、かつ最大の理由は非常にシンプルです。それは、習近平政権が、これまで中国経済の奇跡的な成長を引っ張ってきた「IT優等生」たちを、自らの手で徹底的に潰してしまったからです。

政治や経済の難しい専門用語は必要ありません。中高生からお年寄りまで、誰にでもスッと理解できるように、この「中国の自滅」と「日本の静かなる復活」のカラクリを、5つの分かりやすいポイントからひも解いてみましょう。

1.「金の卵を産むガチョウ」を自ら絞め殺した中国

ほんの数年前まで、中国のIT企業は世界中から羨望の眼差しで見られていました。アリババやテンセント、バイドゥといった巨大IT企業は、単に欧米の真似をするだけでなく、スマートフォン一つで何でも買えるキャッシュレス社会をあっという間に作り上げ、中国経済を力強く引っ張る巨大なエンジンでした。彼らはまさに、国に莫大な富をもたらす「金の卵を産むガチョウ」だったのです。

しかし、習近平政権は、こうしたIT企業が力を持ちすぎることを極度に恐れ始めました。企業が巨大化し、国民の膨大なデータを握ることは、共産党のコントロールが及ばなくなることを意味するからです。

そこで政府は、「資本の無秩序な拡大」を防ぐ、あるいは「内巻(競争が激しすぎて皆が疲弊してしまう状態)」を正すという大義名分を掲げ、IT業界全体に容赦ない弾圧を始めました。旅行予約サイトのトリップドットコムや、ネット通販最大手のアリババに、会社が傾くほどの巨額の罰金を科しました。さらに、新しいサービスを立ち上げるためのルールをガチガチに厳しくしたのです。

これは、童話に出てくる「金の卵を産むガチョウ」のお腹を、もっと金が欲しい、あるいはガチョウを完全に支配したいがために切り裂くような愚かな行為です。企業が自由に競争し、失敗を恐れずに新しいアイデアを試す「自由な市場のメカニズム」こそが彼らの大成功の秘訣だったのに、それを国家の絶対的な命令で縛り付けてしまったのです。すべてをコントロールしようとするあまり、自らの経済の活力を根元から破壊するという、致命的な矛盾に陥ってしまいました。