成功した経営者もあっという間に表舞台から消える

2.イノベーションの息の根を止める「3つ首の檻」

政府の締め付けは、罰金だけでは終わりませんでした。中国政府は「改正サイバーセキュリティ法」「データ安全法」「個人情報保護法」という、IT業界をがんじがらめにする「3つ首の檻」とも言える厳しい法律を作りました。

「データを保護する」と聞くと良いことのように思えますが、中国の場合は「国民を守るため」ではなく「国家(共産党)を守るため」の法律です。これが最も大きなダメージを与えているのが、今世界中で激しい開発競争が起きている「生成AI(人工知能)」の分野です。

AIが賢くなるためには、人間の子どもがたくさんの本を読んで学ぶように、膨大で多様なデータと、何度も失敗を繰り返す実験の自由が絶対に必要です。しかし中国では、「AIが読み込むデータに、政府の批判が含まれていないか」「AIが政府の気に入らない答えを出さないか」が厳しく検閲されます。

そのため、現在の中国の優秀なAIエンジニアたちの主な仕事は、「どうすれば世界を驚かせる画期的なAIを作れるか」を考えることではありません。「どうすれば政府のルール違反にならず、検閲をすり抜けられるか」を気にすることになってしまったのです。世界最高の頭脳たちが、新しい技術(イノベーション)を生み出すのではなく、政府の顔色をうかがう「検閲官」のような仕事に時間を奪われているようでは、世界との競争に勝てるはずがありません。

3.逃げ出すお金と天才たち(大脱出)

こうした息苦しく、先が見えない状況から、中国では今、歴史的な「大脱出(グレート・エクソダス)」が起きています。つまり、国にとって最も価値のある財産である「お金」と「優秀な人材」が、中国を見限って海外へ逃げ出しているのです。人々は言葉ではなく「足による投票」を行っています。

まず「お金の逃避」です。これは単に「他の国のほうが儲かるから」という理由ではありません。アリババの創業者であるジャック・マー氏のような、国を代表する大成功した経営者でさえ、政府の機嫌を損ねればあっという間に表舞台から消され、罰せられてしまいます。「どんなに頑張って稼いでも、法律で自分の財産が守られない」という恐怖は、投資家にとって最大の絶望です。そのため、富裕層たちは中国からお金をどんどん引き揚げ、ルールが明確で財産が守られる日本やシンガポールなどの安全な国へ資産を移しています。

アリババの創業者、ジャック・マー氏
アリババの創業者、ジャック・マー氏(写真=Foundations World Economic Forum/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons

次に、さらに深刻なのが「頭脳の流出」です。トップクラスのAI研究者や天才エンジニアたちは、愛国心よりも「自由に研究できる環境」を選びます。ネットの検閲がなく、最新の半導体(AI開発に不可欠なNVIDIA製GPUなど)が自由に使えるアメリカやヨーロッパへ、次世代を担うイノベーターたちが次々と去っています。中国は、外国から攻撃されて技術力を失っているわけではありません。自らの厳しすぎるルールのせいで、自国の天才たちを追い出しているのです。