人はまばらなのに、アフリカ最高層ビルが建つ街
地平線まで、7車線の立派な道路がまっすぐ伸びている。だが、走る車はほとんどない。
カイロの東、約45キロ。エジプトのアブドゥルファッターハ・エルシーシ大統領は、この郊外の砂漠地帯のただ中に580億ドル(約9兆2200億円)超をつぎ込み、「新首都」と呼ばれる首都移転先を築いている。計画人口は600万人と、ほぼ千葉県全体の人口に匹敵する街を、ゼロから創出する構想だ。
カイロ側の玄関口には、高さ約385メートル・77階建てでアフリカ最高層となった超高層ビル、「アイコニック・タワー」がそびえる。完成すれば日本最高層となる、東京駅前で建設中のトーチタワーと同じ高さだ。英建築デザイン誌のデジーンによると、エジプトのタワーは一足先にすでに完成した。ほか、新首都は9万3000席のスタジアムを擁する。
アフリカン・ビジネスが伝える街の完成予想図は壮大だ。世界最大級のモスク「ミスル・イスラミック・センター」や中東最大の大聖堂がすでに建ち、友好国の大使館を集めた「外交地区」も計画されている。図面の上では、たしかに首都の名にふさわしい街だ。
その街が、人影のまばらなまま完成へ突き進んでいる。
砂漠にあるのに日陰がない
通りで見かけるのは、時折足早に通り過ぎるスーツ姿の男性くらい。あとは公務員と清掃員、警備員ばかりだ。
スイス高級日刊紙のノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングが取材した集合住宅の警備員は、「1棟に25戸ありますが、住んでいるのは3、4戸でしょう」と語るが、それでもここは新首都では賑わっている方だという。
真新しい街の光景は、確かに美しい。だが、「奇妙で人があまり訪れない場所」に惹かれて足を運んだという写真家のヨハン・ブラスベルク氏は、デジーンに、「この都市は人間のスケール感を念頭に置いて設計されていない」との印象を語る。
暑い時期には日中の気温がしばしば35度を超えるにもかかわらず、街には日陰がない。「徒歩で移動するのはほぼ不可能で、日陰もない。これは正気の沙汰とは思えない」とブラスベルク氏は言う。
米中東民主化NGOのDAWNによると、建築界のノーベル賞とされるプリツカー賞を受賞した建築家アレハンドロ・アラベナ氏は、都市の象徴であるアイコニック・タワーのガラスの塔さえ、最大の「温室効果の発生装置」だと批判した。
イギリスの建築家ノーマン・フォスター氏は、新首都の目玉である高速道路網を時代遅れの「恐竜」と切り捨てる。世界の他の都市では高速道路や巨大な高架橋がむしろ取り壊され、緑の公園や歩行者用の大通りに生まれ変わっていると同氏は指摘した。
芳しくない評判は、街全体に及ぶ。カーネギー国際平和基金で中東プログラムの非常勤研究員を務めたミシェル・ダン氏は2018年、この都市の「こだまするような空虚さ」こそ、エジプト市民の大半がエルシーシ大統領の構想の中に居場所を与えられていないことの象徴だと論じた。
この都市は、いったい誰のためにあるのか。


