日本人の認知症の原因ランキングの第1位は、対処可能なことだった。医師の音良林太郎さんは「定期的に検査をして早めに対処することで、認知症リスクを低減すると同時に、生活の質を保ってほしい」という――。
脳のホログラムを指差して見ている医師
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認知症を遠ざける画期的な方法

人間の寿命は、この100年で大きく延びました。次の課題は、延びた時間をどれだけ健やかに過ごせるか、です。健康寿命を延ばす研究が世界中で進むなか、いま思いがけないところに注目が集まっています。認知症を防ぐために手を打てる要素のうち、いちばん大きいのが難聴だとわかってきたのです。

きっかけは、2017年、世界で最も権威ある医学雑誌のひとつ「ランセット」に載った国際委員会の報告でした。それまでの研究をまとめ直したところ、認知症のうちかなりの部分は、生活のなかで手を打てる要因で説明がつくとわかったのです(※1)。2024年に最新のデータが更新され、数ある要因のなかで最も大きかったのが難聴でした(※2)。しかも、中年期からの聞こえが問題になるとされました(※3)

2026年には、日本のデータだけで計算し直した研究も出ました。結果は、1位が難聴で認知症全体の6.7%、2位が運動不足で6.0%、3位がコレステロールの問題で4.5%でした(※4)

この6.7%という数字には少し説明が必要です。「認知症の6.7%が難聴のせい」という意味ではありません。「もしも社会全体で難聴への対策が行き渡ったら、認知症になる人が理論上どれだけ減るか」を表す数字です。難聴は検査で見つけやすので、ランセットの委員会も対策は「早いほどよく、長く続けるほどよい」と述べています。

※1 Livingston G, Sommerlad A, Orgeta V, Costafreda SG, Huntley J, Ames D, et al. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet. 2017;390(10113): 2673-2734.
※2 Livingston G, Huntley J, Liu KY, Costafreda SG, Selbæk G, Alladi S, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404(10452): 572-628.
※3 内田育恵. 疫学的視点から見た加齢性難聴と認知症. 日本音響学会誌. 2025;81(5): 338-344.
※4 Wasano K, Jørgensen K. The potential for dementia prevention in Japan: a population attributable fraction calculation for 14 modifiable risk factors and estimates of the impact of risk factor reductions. Lancet Reg Health West Pac. 2026;66: 101792.

加齢によって耳で何が起こるのか

私たちの耳の「高音を聞き取る力」は、中年期より前から少しずつ下がり始めます。日常会話に困るほどの難聴が増えるのは、65歳を過ぎてから。日本人を調べた研究では、70代前半の男性の約5割、70代後半の約7割が難聴でした(※5)。ただし、かなり個人差が大きく、80歳でも正常な人もいれば、60代で難聴の人もいます。

では、なぜ年をとると難聴になるのでしょう。耳の最深部にある「蝸牛かぎゅう」という器官には、音をキャッチして電気信号に変えるマイクのような「有毛細胞」が並んでいます。この有毛細胞が傷むことが、加齢性難聴の主因。加えて、有毛細胞と脳をつなぐ配線――つまり神経も少しずつ傷みます。神経が傷むと、音は聴こえているのに言葉として聞き取れないという困った状態になるのです。「何か言われたのはわかるのに、内容が聞き取れない」。心当たりのある人もいるのではないでしょうか。

そこに体質や長年浴びてきた騒音の影響も重なって聴力が低下するのです。特に強い騒音で蝸牛を傷つけると、若くても難聴(騒音性難聴)になり、聴力は元に戻りません。WHOはイヤホンの音量を最大の6割までにとどめ、大音量を長く聞き続けず、ときどき休憩を取ることをすすめています。ノイズキャンセリング機能を使えば、周囲がうるさくても音量を上げずに済みます。

※5 Uchida Y, Sugiura S, Nakashima T, Ando F, Shimokata H. 全国高齢難聴者数推計と10年後の年齢別難聴発症率――老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)より. Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 2012;49(2): 222-227.