難聴だと認知症になりやすい理由

ここで気になるのは、「なぜ難聴だと認知症になるのか」という疑問でしょう。もちろん、難聴だけですぐ認知症になる、という単純な話ではありません。いくつかの要素が重なって、じわじわと脳に影響していくと考えられています。

まずは、耳から脳への影響です。聞こえにくくなると、耳から脳に届く音の情報が減ります。すると不思議なことに、脳の負担はむしろ増えるのです。かすれた音や雑音まじりの声から言葉を拾い上げるために、脳は欠けた部分を推理で補い続けなければなりません。この無理な働き方のしわ寄せが集まるのが、記憶の中枢である海馬のまわりだと考えられています。実際、日本人の集団を調べた研究では、聴力が悪い人ほど海馬が小さいという関係が見つかりました(※6)。米国の追跡調査でも、難聴のある人のほうが、脳の縮むスピードが明らかに速かったのです(※7)

もうひとつ、耳が聞こえにくいと話すのが億劫になり、人と会う機会が減ります。米国や北欧の調査では、難聴のある人は仕事に就いていない割合が高いことがわかっています。そこから気分の落ち込み、意欲の低下、孤立へと進み、認知機能の低下につながっていくというわけです。日本のデータでも、難聴のある高齢者は付き合いのある人の数が少なく、特に家族以外との関わりが目立って少なくなっていました(※8)。そして、日本人の認知症の原因ランキング4位は社会的孤立です。

※6 Uchida Y, Nishita Y, Kato T, Iwata K, Sugiura S, Suzuki H, et al. Smaller hippocampal volume and degraded peripheral hearing among Japanese community dwellers. Front Aging Neurosci. 2018;10: 319.
※7 Lin FR, Ferrucci L, An Y, Goh JO, Doshi J, Metter EJ, et al. Association of hearing impairment with brain volume changes in older adults. Neuroimage. 2014;90: 84-92.
※8 Ogawa T, Uchida Y, Nishita Y, Tange C, Sugiura S, Ueda H, et al. Hearing-impaired elderly people have smaller social networks: a population-based aging study. Arch Gerontol Geriatr. 2019;83: 75-80

患者の耳に補聴器を装着する医師の手
写真=iStock.com/AndreyPopov
※写真はイメージです

補聴器を使えばリスクは下がるか

では、補聴器をつければ認知症を防げるのでしょうか。もちろん、他の要素もありますし、確実に防げるとまではいえませんが、可能性はあります。

2019年、WHOは「認知症になりにくくなるための初めての指針」をまとめました(※9)。このとき補聴器については「まだ根拠が足りない」という判断でした。ところが2024年のランセットの報告では一歩前進しました。「補聴器が認知症のリスクを下げるという結果は一貫しており、支持できる」という書き方に変わったのです。

また、70代から80代の難聴の人(977人)を3年間追いかけた米国の研究では、集団を〈補聴器を使うグループ〉と〈健康の話を聞くだけのグループ〉にランダムにくじ引きで分けて比べた結果、心臓や血管の病気のリスクが高い人においては、補聴器をつけたほうが3年後の認知機能の落ち込みが48%も小さかったのです(※10)

日本のデータもあります。日本人の集団を調べた研究では、中等度の難聴があっても補聴器を毎日使っている人は、認知機能の低下がはっきりと抑えられていました(※11)。また、大学病院7施設の共同調査で補聴器を始めた人たち(平均77歳)を調査したところ、6カ月後には段取りをつけて物事を進める力が上がっていました(※12)。ただし、この結果には、認知症の傾向が軽い人ほど補聴器を根気よく使い続けられる、という逆向きの関係も混じっているかもしれません。

※9 World Health Organization. Risk reduction of cognitive decline and dementia: WHO guidelines. Geneva: World Health Organization; 2019.
※10 Lin FR, Pike JR, Albert MS, Arnold M, Burgard S, Chisolm T, et al. Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss in the USA (ACHIEVE): a multicentre, randomised controlled trial. Lancet. 2023;402(10404): 786-797.
※11 Sugiura S, Uchida Y, Nishita Y, Teranishi M, Shimono M, Suzuki H, et al. Prevalence of usage of hearing aids and its association with cognitive impairment in Japanese community-dwelling elders with hearing loss. Auris Nasus Larynx. 2022;49(1): 18-25.
※12 Uchida Y, Mise K, Suzuki D, Fukunaga Y, Hakuba N, Oishi N, et al. A multi-institutional study of older hearing aids beginners-a prospective single-arm observation on executive function and social interaction. J Am Med Dir Assoc. 2021;22(6): 1168-1174.