「600万人都市」に移り住んだのは3万人だけ

新首都の計画が動き出したのは、2015年。当時は「新行政首都」と呼ばれたが、のちに「新首都」に名称変更となり、実質的に格上げされた。

総面積は東京23区の約1.1倍。建築メディアのアンシンカブル・ビルドは総事業費580億ドルを、エジプトの医療予算と教育予算を合わせた額のさらに2倍以上に相当すると説明する。

だが着工から10年にあたる2025年、英非営利報道機関のミドル・イースト・モニターは、入居しているのは約1200世帯にすぎないと伝えた。アンシンカブル・ビルドは約5000世帯としている。

サウジ系汎アラブ紙のアシャルク・アウサトによると、事業主体である新行政首都都市開発会社(ACUD)のハーリド・アッバース会長は2026年6月、住民は3万人を超え、年末には5万〜6万人に達する見込みだと語った。公共料金のメーターの設置申請数を基にした事業主体自身の発表であり、独立した調査で裏付けられた数字ではないが、いずれにせよ、完成した約10万戸に対して入居数はごく一部にとどまる。

約48億ドル(約7630億円)規模の第2フェーズも、2025年前半だった着工予定が守られていない。ただ、資金がどこにどう使われたのかは、外からは追えない。この街の建設を仕切っているのが軍だからだ。米国際問題シンクタンクのカーネギー国際平和基金によると、軍系機関は2013〜18年に公共資金による建設の25%を、2019〜20年には28〜38%を管理下に置いた。それ以降の包括的な統計は公表されておらず、その財務データは国家安全保障を理由に公開されない。

住宅・都市政策研究者のヤヒヤ・シャウカト氏は、人が集まらない理由に、公共サービスの不足、交通の不便さ、生活費の高さ、そして職場や教育機関からの遠さを挙げる。

終業後はバスに乗って45キロ先のカイロへ

日が暮れると、街から人影が消える。

CNNやミドル・イースト・モニターによると、新首都には毎日約4万8000人の公務員が通勤する。ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングは、昼になると省庁ビルの前の駐車場を青と白のバスが数百台埋め尽くすと伝えている。

そして就業時間が終わると、バスは公務員を乗せ、西へ45キロ離れたカイロへとまた戻っていく。官庁が相次いで新首都に移っても、暮らしの拠点はカイロに残ったままだ。

通勤者の新たな足として、今年5月6日、カイロ中心部に近いナスルシティと新首都を結ぶ全長56.6キロの東ナイル・モノレールが一部の駅で先行開業した。

カイロと新首都を結ぶモノレール
写真=Khaled DESOUKI/AFP/時事通信フォト
カイロと新首都を結ぶモノレール(2026年5月22日)

評判は悪くない。カタール国営衛星テレビ局のアルジャジーラの取材に対し、教師の女性(28)は高架から見える景色を「空を飛んでいる感覚に近い」と評した。だが、その女性に不満な点を尋ねると、返ってきたのは「値段」の一言だった。

定期券は5割引きと、割引率こそ大きい。ところが、その定期を使ってなお、全区間の通勤では月に約1760エジプト・ポンド(約5460円)がかかる。最低賃金は月8000ポンド(約2万5000円)であり、その22%が運賃に消える計算だ。

「モノレールはこれまでとは異なる社会階級のために作られたものだ」。経営・投資学が専門のモハメド・エル=シャワドフィ教授は、アルジャジーラの取材に、そう言い切る。