中国の高速鉄道網は2025年末、総延長5万400キロメートルに達した。日本のフル規格の新幹線網の約17倍である。だが高速鉄道の運賃が在来線の3~4倍になる区間もあり、駅は閑散とし春節でも車内には空席が目立つ。運営する中国国家鉄路集団の負債は2024年時点で1兆ドル(約159兆円)に迫るという。なぜ習近平政権は、需要の乏しい地域にまで高速鉄道を造り続けたのか。海外メディアが、その巨大事業の実態に注目している――。
杭州東発新郷東行の列車
杭州東発新郷東行の列車(写真=Windmemories/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

1000人座れる待合室にいたのはたった20人

1000人分の座席が、整然と並んでいる。中国・四川省富順県、高速鉄道の富順駅の待合スペースだ。ある日の午後、この広い空間にいたのは、わずか20人ほど。大多数は空席だった。

富順県の人口は、およそ70万人。島根県とほぼ同じ規模だ。住民の多くは農村で暮らし、その数は少しずつ減り続けてきた。それでも2021年、この県に初めて高速列車が乗り入れると、地域が活気づくのではと住民は期待した。

しかし、ほとんどの駅で乗客の姿はまばらだ。ウォール・ストリート・ジャーナルは2024年11月の記事で、利用者のほとんどいない高速鉄道の駅が中国各地に増えたと指摘した。

習近平国家主席は、前任の胡錦濤氏の構想を引き継ぎ、主要都市を結ぶ総延長約1万6000キロメートルの高速鉄道計画を一気に拡大した。

だが、空振り感は否めない。2024年の時点で、富順県を中心とする半径64キロほどの範囲に、高速鉄道の駅が少なくとも12駅も建設された。これに対し、高速鉄道を運営する中国国家鉄路集団の負債は、同年時点で1兆ドル(約159兆円)に迫る。同記事はこの事業を「巨大な金食い虫」と評した。その推計では、債務を維持するだけで年に250億ドル(約3兆9800億円)が出ていく。

一般に、中国が新興国のインフラ整備に資金を出す広域経済圏構想「一帯一路」は、巨額の融資で相手国を返済不能に追い込む「債務の罠」だと批判されてきた。その罠に、いま中国自身が陥ろうとしている。

「4万2000キロを超す赤字路線」の指摘も

富順駅とよく似た閑散とした高速鉄道駅は、中国各地にある。収支から見ると、中国の高速鉄道網で黒字の区間はほんの一握りで、大半の区間は赤字である。

ただ、その全体像は決算を見ても浮かんでこない。高速鉄道の収支が、旧型の在来線車両「緑皮車」の収支と合算されて公表されるためだ。

路線ごとに見ていくと、収支の偏りがはっきりしてくる。香港の英字オンライン紙アジア・タイムズは2025年6月、中国のニュースサイト「観察者網」が2024年5月に公表した記事を引きながら、次のように伝えている。2023年末の総延長4万5000キロのうち、採算が取れているのは2300キロであり、全体の6%にすぎない。黒字は北京―上海、北京―天津など6路線で、いずれも都市化の進む沿海部を走る、と。ただし国家鉄路集団は路線ごとの収支を公表していない。この6%は、中国メディア側の集計にもとづく数字である。

収支を左右するのは、その路線をどれだけの人が使うかだ。これを測るのが「輸送密度」という指標だ。乗客数に移動距離を掛けた「人キロ」を路線の長さで割ったもので、1キロメートルあたりがどれだけ使われているかを示す。

インド独立系シンクタンクのオブザーバー・リサーチ・ファウンデーションは、北京交通大学の趙堅教授が分析した2015年時点のデータをもとに、路線ごとの格差を示している。国家鉄路集団は高速鉄道単体の輸送実績を公表していないため、この数字は現在でも貴重なデータだ。

同分析によると、北京―上海線の4800万人キロに対し、より距離の長い蘭州―ウルムチ線は230万人キロ。約20分の1という低い水準だ。中国の高速鉄道全体の輸送密度も1700万人キロで、同じ年の日本の新幹線(3400万人キロ)の半分にすぎなかった。路線が長ければ建設費も維持費もかさむが、肝心の輸送密度は、そうした路線ほど低い。

中国国営の英字紙チャイナ・デイリーは今年1月、国家鉄路集団の発表として、2025年末に中国の高速鉄道網が総延長5万400キロに達したと報じた。約3000キロに達する日本の新幹線網と営業距離を単純比較すると、約17倍にあたる。しかし財政の健全化は後手に回っている。