春節でも空席が目立った車内
アジア・センティネルは、中国科学院の陸大道氏の分析を取り上げている。陸氏は、高速鉄道網が「基本的な経済論理」を逸脱する形で広がり、その拡大が財政を圧迫したと批判する。駅から先の交通手段、いわゆるラストワンマイルの整備がないまま、高速鉄道をつくること自体が目的と化した。地方には立派な駅とゴーストタウンが生まれた。
高速鉄道ははなから収益性を念頭に置いていなかった。鉄鋼の過剰供給を吸収するため、債務を財源に人工的な需要をつくり出す仕組みにすぎない。
収益が目的でなかったのなら、採算が最初から取りにくい構造だったのも当然だ。
高速鉄道の建設費は、在来線の約3倍。しかも旅客専用で貨物を運ばないことから、建設費も運営費も旅客運賃だけで賄うしかない。必然的に高額となる運賃だが、肝心の乗客はいるのか。
昨年1月の春節(旧正月)、帰省客であふれるはずの高速鉄道に空席が目立った。住民たちは米議会系アジア向け放送局のラジオ・フリー・アジアの取材に、安い切符を求める人々の多くが緑皮車に流れていると証言した。
中国のSNSには「みんなどこに行ったの?」という書き込みとともに、年間最大の大型連休に似つかわしくない空席だらけの車内を撮った動画が投稿されている。
黒字路線の足を引っ張る赤字路線
人々が在来線に移るのは、運賃の差が大きいからだ。
広州在住の乗客は、広州―長沙間は緑皮車で9時間かかるが、運賃は100元(約2360円)ほどだと説明する。高速鉄道では400元(約9440円)近くになり、およそ3〜4倍の出費を迫られる。好景気と言い難い中国で、この差は大きい。
だが鉄道会社にとっては、すでに高額なこの運賃でも収入が足りない。アジア・タイムズによれば、2024年の鉄道旅客数は前年比10.9%増の40億9000万人に達した。それでも中国国家鉄路集団の総収入1兆2800億元(約30兆2000億円)に対し、純利益は38億8000万元(約915億円)。収入のわずか0.3%にとどまった。
同社は2024年6月15日、武漢―広州など利用者の多い4路線で、正規運賃の上限を最大20%引き上げた。アジア・タイムズは、赤字路線を支えるための措置だとみている。
こうしたやり繰りを迫られる一方、路線の建設は止まらない。赤字などまるで存在しないかのように、線路はなお、内陸のさらに奥へと延びていく。
重慶―昆明間は、すでに高速鉄道が約5時間で結んでいる。それでも中国国家鉄路集団は別のルートで、200億ドル(約3兆1800億円)を投じる新線を建設中だと、ウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。工事は今年2月に橋梁が、6月にトンネルが全線でつながり、年内の開業が見込まれている。所要時間は約2.5時間に縮まる。

