出稼ぎに出たくても、列車の運賃が払えない

重慶と昆明を結ぶ新線によって、四川省高県に初めて高速鉄道が通る。駅の予定地では、真新しいマンションが次々と姿を現している。中国国家鉄路集団は、この新線が「地域経済を支え、国家の統一を促進する」と強調する。

だが、高県に多いのは養豚農家や穀物農家だ。この県の人口は約37万5000人。2019年からの人口流出で1割近くが減った。1人当たりの生産額は、全国平均の3分の2にとどまる。

人が出ていくのは、交通の便が悪いからではない。北へ40分の宜賓市には高速鉄道が通っており、そこから人口2000万人(東京都の1.4倍)の成都へも約2時間で着く。足りないのは線路ではなく、明らかに雇用だ。

高架の真下に家と畑がある女性は、ウォール・ストリート・ジャーナルに、「まじめに働いてもっと稼ごうと思ったら、外に出て仕事を探すしかない」と語った。稼ぎがなければ運賃は払えない。成都へ出稼ぎに出ようにも、頭上を走るその列車には乗れないのだ。

際立つ東海道新幹線の異常さ

国家鉄路集団の2020〜22年の損失額は、250億ドル近くに上る。

同社は経費を削り、2023年に黒字へ転じた。ただしウォール・ストリート・ジャーナルによれば、この黒字化は政府補助金を含む10億ドル(約1590億円)超の「その他収入」があってのことだ。

もっとも、公共交通が補助なしでは成り立たない事情は、中国に限った話ではない。アメリカの全米鉄道旅客公社(アムトラック)をはじめ、フランスやドイツの鉄道も、国の資金を受けて施設を整備し地方路線を維持している。

都市の地下鉄やバスに至っては、ニューヨークでもロンドンでも、運賃収入だけで賄えるものではない。補助を受けずに黒字を出す日本の東海道新幹線のほうが、世界的にはむしろ例外的である。

東海道新幹線の三島―新富士間を走行するJR東海所属のN700系(N700A)
東海道新幹線の三島―新富士間を走行するJR東海所属のN700系(N700A)(写真=MaedaAkihiko/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

ただし、黒字区間が沿岸部の数本に限られるとされる中国は、それでも異常だ。赤字が出ても国が面倒を見るという前提のもと、採算を度外視し人口密度の低い地域にまで路線を拡大してきた結果が、いまの負債である。

財務体質はその後もじわりと改善している。中国政府の発表によれば、2025年の輸送収入は1兆204億元(約24兆1000億円)と初めて1兆元を超え、資産に対する負債の比率も1ポイント下がって62.5%になった。それでも負債額は依然として6兆元(約141兆円)を超える。