大阪を中心に20店舗を展開する老舗ベーカリー・ダイヤ(大阪市生野区)は、「2年連続で1億円超」という創業史上最悪の赤字からよみがえった。離職率も、業界平均5分の1以下にまで激減。いまでは、辞めた社員までもが戻ってくるという。一体、何があったのか。会社の大改革を先導した元エンジニアの3代目、多田俊介社長に取材した――。(取材・執筆=笹間聖子)

デパ地下に現れた行列の正体

2026年4月20日、大丸梅田のデパ地下の一角に長い列ができていた。

目当ては、その日オープンするベーカリー「D.baguette by parigot & DIA(ディー・バゲット)」だ。夕方には、棚のパンはほぼ売り切れ。それから6月半ばの現在まで、行列は途切れず毎日続いている。

2026年4月にオープンした、D.baguette by parigot & DIA(大阪府・大丸梅田)
2026年4月にオープンした、D.baguette by parigot & DIA(大阪府・大丸梅田)(画像=プレスリリースより)

ディー・バゲットは、創業80年、大阪で20店舗を展開する老舗ベーカリー 株式会社ダイヤと、世界製パン競技会で日本チームを初優勝へ導いた「Boulangerie parigot」の安倍竜三オーナーシェフが、共同で立ち上げた新ブランドだ。

新店オープンの社内告知が出たとき、ダイヤでは珍しい現象が起きていた。配属希望者が殺到したのだ。

これまでは、新店ができても「慣れた店でいいです」と異動を渋るのが当たり前だった。しかし、製造からも販売からも「新しいお店で働きたいです」と手を挙げる人が続いた。一度は外の世界に飛び込みたいと退職した元店長まで、「もう一度、正社員で働かせてください」と1年ぶりに戻ってきた。

D.baguette by parigot & DIAのショーケース
D.baguette by parigot & DIAのショーケース(画像=プレスリリースより)

数年前のダイヤを知る人なら、この光景はとても信じられないだろう。

時計の針を、2020年の夏に巻き戻そう。

「この借金、どうやって返すんですか」

2020年7月、多田俊介さん(46)は父の跡を継いでダイヤの3代目社長に就任した。

大阪の老舗ベーカリー「クックハウス」を運営する、ダイヤの多田俊介社長(46)。2020年の就任当時、「3年連続で1億円を超える赤字」という創業史上最悪の状態だったという。
撮影=プレジデントオンライン編集部
大阪の老舗ベーカリー「クックハウス」を運営する、ダイヤの多田俊介社長(46)。2020年の就任当時、「3年連続で1億円を超える赤字」という創業史上最悪の状態だったという。

誰からも、祝いはなかった。コロナ禍のまっただ中、商業施設の休業要請でクックハウスの店舗は6つ閉まり、駅構内の店も開けてはいるが客はこない状況下である。

「最初は、肩書きが変わっただけで、やっている仕事はあまり変わらなかったですね」

それまで多田さんは、経営統括本部で経営改善を担っていた。社長になっても日々の業務に大きな変化はなく、実感は薄かった。だが、それを覆す出来事が起こる。銀行員からの厳しい叱責だ。

多田さんが社長に就任した2020年から2022年までの3期連続で、ダイヤは1億円を超える営業赤字を計上していたからだ。約80年の歴史で最大の赤字である。

【図表1】ダイヤ 売上・営業利益の推移
ダイヤの売上推移(棒線)と、営業利益の推移(折れ線)。2020年からの3年間、1億円を超える赤字が続いた。(取材をもとに編集部作成)

複数の銀行を訪ね、頭を下げる日々がはじまった。

「これから先、どういう経営をしていかれるつもりなんですか? この借金、どうやって返すつもりなんですか?」

メガバンクの応接室で、向かいに座った担当者から低い声で詰められたこともあったという。