会議には居座らない
組織変革は、店長会議にも及んだ。
前社長の時代、ダイヤの店長会議は、その月の売上を順番に報告していくスタイルだった。「先月、前年対比で90%でした」とマイナスの報告すると、その店長は社長から「なぜそうなったのか」「どう改善するのか」と詰められる。
多田さんは、これをやめた。
「たとえば中国人観光客が減ったり、近隣にライバル店ができてお客様が減ったとします。それで売上が下がっても、責任を店長一人に押し付けて詰めるのは論理的じゃないと思うんです。全員で解決していく問題です。その人個人が何か悪いことをしたわけじゃないのに、一店長への責任が過剰にありました」
新しい店長会議では、多田さんは冒頭の挨拶だけして退室するという。あとは店長たちが、エリアごとに分かれて議論する。「先月こんなことがあった」「こうしたらどうか、ああしたらどうか」と意見を出し合い、自分たちで考え、話し合う。会議の最後に多田さんは結果だけを聞きに戻ってくる。そして、「じゃあ頑張ろうね」と言うだけ。
会議の雰囲気は、一人ひとりが問い詰められる「尋問の場」から、知恵を持ち寄る「合奏の場」へ変わった。
「今は、みんなで責任を引き受けようという雰囲気で、すごく良くなってきたなという感じがします」
アルバイトのアイデアが商品に
並行して、もうひとつ、組織の空気を変えた仕組みがある。「コンセプトシート」の導入だ。
正社員からパート・アルバイトに至るまで、すべての従業員が「コンセプトシート」と呼ばれるA4の用紙1枚で、新商品のパンを提案できる新制度を作ったのだ。提出されたコンセプトシートは、月例の商品企画会議で、提案者の名前を消した状態で議論される。社長の多田さんも提案を出すというが、それも、もちろん名前は伏せられる。
「最初は、価格や原価率といった細かい項目があったんですけど、書きづらいと言われて。今は絵を描いたり、ネットの画像を貼って『こんなパン』と書くだけでも出せます。気軽に出してもらうことを優先しているんです」
これまで採用された企画は、現場のパート、アルバイトから出たものも少なくない。また、子どもたちのアイデアから生まれるパンもある。2022年から生野区の小学校で、子供たちと一緒にパンの開発から販売までを行う出前授業をはじめたのだ。
コロナ禍で体験学習ができない時期に始まった取り組みで、生徒が考えた、ハート形のストロベリーチョコレートコーティングをした「失恋パン」が文化祭で販売されたこともあった。
店をまたいだヘルプ文化も、コロナ禍を機に定着した。ある店でコロナ感染者が出ると、別の店から応援を送る。それを繰り返すうちに店同士でつながりができ、今は「~さんに会いたいから」と、欠員がなくてもヘルプに行くスタッフもいるそうだ。
個人を責めず、提案を引き出し、応援し合う組織へ。多田さんは、組織の空気そのものをゆっくりと変えていった。

