人間らしい、身体に負担のないシフトへ

パン職人の働き方改革にも着手した。

それまで、ダイヤのパン作りは0時スタートが当たり前だった。朝7時、8時にパンを店頭に並べるためには、前日の夕方から仕込んで深夜に焼くしかない。家族を持つ人間にとって、その生活は厳しい。いくらパン作りが好きでも、生涯続けるのは難しい状況だった。

「人間らしい、体に負担のないシフトにしていかないといけない」

多田さんは、生地を作った後に冷蔵・冷凍することで発酵をいったん止め、朝に解凍、発酵させて焼く仕組みに徐々に切り替えていった。そして、販売個数が激減したコロナ禍を機に完全に移行した。深夜0時に工場の灯りが点る時代から、朝3〜5時に出勤する時代へ。電車のある時間に家に帰れる職人も増えた。

それらの改革が功を奏し、2024年には、かつて月平均20時間を超えていた従業員の残業時間は2時間に激減。多いときでも月10時間あるかないかとなった。紙の文化を変え、シフトを変え、無理な働き方をしなくてもいい環境をつくる――その地ならしが、2013年から2020年にかけて、ゆっくりと、しかし着実に進んだのだ。

働き過ぎは、人をこわす

その推進力となったのは、多田さんの中で忘れられないある出来事だ。ダイヤに入社3年目の2016年、IT企業時代の尊敬する先輩が、白血病で急逝したことだった。

「2日徹夜すれば難関資格にも合格する、スーパーマンのような人でした」

白血病の原因はわからなかった。でも、どこかで体に無理をしていたのではないか、という思いが残った。

多田さん自身も、IT企業の大阪事業所で激務をこなしていた時代に「原田病」と呼ばれる目の病気にかかり、一時的に視力を失ってしまった経験があった。

働き過ぎは、人をこわす。

そう身を持って知っていたのだ。

夜遅くまでオフィスで残業をする男性
写真=iStock.com/Vesnaandjic
※写真はイメージです