「紙が多い」会社を、変えていく

多田さんがダイヤに入社したのは2013年。それまでの彼は、大手IT系企業のシステムエンジニアだった。仙台事業所に新卒で配属され、8年勤務。2011年の東日本大震災をきっかけに大阪事業所に転勤し、そこで2年。家業を継ぐ気は、もともとなかった。叔父や父、弟も家業に入っていたので、「誰かがやってくれるだろう」と思っていた。

それでも、家業に入る決断をしたのは複数の理由がある。

父に求められたこと。大阪に来てから子供が生まれ、激務のIT企業で働き続けることへの迷いが生まれたこと。管理職になって、大好きなプログラミングに直接携われなくなったこと。週末、家族や妻が忙しく家業を回す姿を見聞きしてもいた。

「ちょっと、戻ってこないといけないかな、みたいな。罪悪感のような気持ちがありました」

2013年、ダイヤに入社。最初に感じたのは「紙が多い」だった。

というのも、取引先約100社への注文は、すべて手書きのFAXだったのだ。

大量の書類を抱え、複合機を操作する女性
写真=iStock.com/jat306
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残業代の計算で1日が終わる

「材料の小麦粉の1種類はどの会社さんで、どのフォーマットで……というのが100種類あって、紙を探すのも大変ですし、書いて送るのも手間でした」

タイムカードも紙で、月末に各部署の部門長がエクセルに転記して残業代を計算する。

現場にヒアリングすると、「それだけで1日かかることもありますし、間違うと大変なことになります」と、苦しい声が聞こえてきた。

気がかりは、紙の問題だけではなかった。

「会社としての目標や理念など、こっちの方向に向かってるんだよ、というのが当時はあまりなくて。ひたすら毎日パンを作り続け、売り続ける、みたいな雰囲気だったんです。それが故に、忙しいと損、楽だと得……みたいな感覚が現場にあって」

本来、忙しさは売上と利益に変わり、従業員に還元される。だから喜びになる。だが、当時のダイヤの従業員は目の前の仕事に追われているだけで、その実感を持てていなかった。

そこから多田さんは、状況を少しずつ変えていった。受発注システムを導入し、100社分のFAXを、1つのパソコンシステムで入力できる形に集約。勤怠管理も、月額一人300円で使えるクラウドサービスに切り替えた。

「絶対楽になるものしか提案しない」という方針で進めたため、反対はほとんど出なかったという。