災害が起きて自宅で眠れなくなっても、誰もが避難所で暮らせるわけではない。熊本地震の被災地では、避難所を3日で出て車中泊を続ける高齢夫婦や、庭先に蚊帳を張って眠る家族がいた。そんな被災者の軒先に、最速1時間で完成する「インスタントハウス」を届けているのが、名古屋工業大学教授の北川啓介さんだ。費用は寄付で賄われ、被災者と自治体の負担はゼロ。なぜ、この小さな家に依頼が殺到しているのか。フリーライターの川内イオさんが現地を取材した――。(前編)
名古屋工業大学教授の北川啓介さん
筆者撮影
名古屋工業大学教授の北川啓介さん

真夏の被災地に現れた「インスタントハウス」

「え、涼しい……!」

インスタントハウスの扉のファスナーを開けてなかに入った女の子が、笑顔で驚いた。

8月9日、熊本県氷川町はギラギラと太陽が照り付ける真夏日で、日なたにいたら熱中症の危険性を感じる午後だった。

許可を得てなかに入れてもらうと、そこは別世界だった。エアコンがしっかり効いていて、外の熱気をまったく感じない。汗が急に冷えたせいか、少し肌寒いぐらいだ。

7月28日に起きた熊本地震で、氷川町は気象庁の震度階級のなかで最も大きい震度7を記録した。日本で震度7が観測されたのは、2024年1月の能登半島地震以来。町のなかには完全に崩れ落ちてしまった家がいくつもあり、想像もつかないような揺れに襲われたことがわかる。

8月4日にできたばかりのこのインスタントハウスには、今回の地震で家屋が倒壊してしまったAさんとその家族が続々と家財道具を運び込んでいた。プラスチックのパレットのうえに畳を置き、エアマットを敷いたベッドや座椅子、テレビなどの場所が定まると、そこはもう立派な部屋。広さは約20平米(約12畳)あり、3、4人で快適に避難生活を送れそうだ。

インスタントハウスの内部
筆者撮影
Aさんのインスタントハウスの内部

この部屋を見て、「お、ステキですね!」と声をかけたのは、北川啓介さん。インスタントハウスを開発した名古屋工業大学大学院の教授だ。東日本大震災の際、避難所で子どもに「なんで仮設住宅が建つまで何カ月もかかるの? 大学の先生なら来週建ててよ」と言われたのを機に、5年半かけて考案した。