庭先の蚊帳で寝泊まりし、夫は肺炎に
モンゴルの遊牧民が暮らす移動式住居「ゲル」のようにも、卵の卵白を泡立てたメレンゲのようにも見えるインスタントハウスを前にすると、誰もが明るい表情を浮かべる。氷川町の別のエリアに住むCさんも、インスタントハウスの設置作業を見守りながら、何度も「かわいい!」と口にした。
Cさん宅は今回の地震で自宅横の大きな倉庫が崩壊し、自宅にもたれかかるような状態になってしまった。その結果、自宅も倉庫も「危険」と判定され、次に大きな地震があると、どうなるかわからない。それでも、「町内で泥棒が捕まったという話を聞いたし、うちのことが心配で離れられなくて」と、庭先に蚊帳を張って家族で寝泊まりしていた。
それで無理が祟ったのか、夫が肺炎になって入院。家のことも夫のことも不安が尽きないなか、町内の区長からインスタントハウスの話を聞いて自宅前の土地に設置を頼んだ。そこは隣人宅が所有する空き地だったが、高齢の隣人は地震を機に施設に入所したため、「貸してください」と頼むと、「家の見守りにもなるからいいですよ」と許可を得たという。
取材の日、遠方に住むCさんの娘が幼い子どもふたりを連れて、お見舞いに来ていた。そこに居合わせた北川さんは、子どもたちと遊びながら、「ここに新しいおうちができるから、また遊びに来てね」と声をかける。娘との別れ際、ギュッと抱き合ってから見送ったCさんは、「次に孫たちが来たときには、この家に絵を描いてもらいたい」と微笑んだ。
「うちにも建てられますか?」依頼は200軒超
熊本県の発表(8月9日時点)によると、今回の地震による住家被害は2万740棟に及ぶ。内訳は全壊699棟、大規模半壊20棟、半壊1025棟、一部破損7876棟、分類未確定1万1120棟で、県内12市町の避難所99カ所に6000人を超える人たちが避難している。
発災翌日に現地入りし、「できる限り要望に応えたい」と出会った被災者のほぼ全員に名刺を配ってきた北川さんのスマホには電話の着信とメッセージが絶えず、取材中にも被災者から「うちにもインスタントハウスを建てられますか?」と問い合わせがきていた。
被災地全域から200軒以上の設置希望が寄せられているなか、氷川町でインスタントハウスの設置が進んでいるのは理由がある。
熊本に入った際、北川さんは被害が大きいと報道されていた八代市に直行。「まずは室内用のインスタントルームを」と避難所を訪ねた。ダンボール製のインスタントルームは組み立て式で、所要時間15分、要望に合わせて形状を変えることができ、連結も可能な優れもので、寝食できるプライベート空間や女性の着替え用スペースなどとして能登でも多数導入された実績がある。
しかし、設置には市役所の公的な許可が必要で、相応の時間がかかるとわかり、残念な気持ちを抱えながら次に向かったのが、氷川町だった。レンタカーを走らせていると、疲れ果てた様子の高齢者たちが軒先でぐたっとしているのが見えた。それがどうしても気になり、引き返して自分とインスタントハウスの紹介をした。
すると、被災者が多く集っていた公民館に案内され、「見たことある!」「これ欲しい!」とあちこちから声が上がる。そのとき、町民の間で「困っているのは自分たちだけじゃない。役場にいこう」という話になり、そこからとんとん拍子に危機管理防災課、町長とつながって、8月1日には着工という流れになった。



