2012年に発足した習近平政権は異例の3期目に突入し、4期目も視野に入れている。新刊『習近平は何を恐れているのか?』(ビジネス社)を出版した評論家の白川司さんは「盤石の体制を築いた結果、耳の痛い情報は上がらなくなり、真実からは遠ざかる。真実から遠ざかるほど判断が歪み、歪んだ判断により失政を重ねるという悪循環に陥っている」という――。
北京で科学技術に関する大会 習近平氏が重要演説
写真=新華社/中国通信/時事通信フォト
中国北京の人民大会堂で2026年7月8日、国家科学技術奨励大会、中国科学院第22回院士(アカデミー会員)大会、中国工程院第18回院士大会、中国科学技術協会第11回全国代表大会が開かれ、重要演説を行う習近平氏

「最強」なのに何かを恐れている

毛沢東以来といわれる権力集中を実現したはずの中国国家主席が、なぜ数十年来の幼なじみである側近まで粛清し、猜疑を年々深めているのか。その答えを、中国共産党の中枢に身を置きながら習批判へと転じた一人の女性学者が、命がけで発信している。

彼女が暴いたのは、習の「絶対権力者」としての強さではなく、その正体が「ハリボテ」であるという事実だった。

習近平は、中国共産党の総書記・国家主席・中央軍事委員会主席の三職を兼ね、任期制限を撤廃し、軍の最高指揮権を掌握し、長老の影響力を封じ、競合するあらゆる権力ネットワークを解体してきた。

これほどの権力集中は、毛沢東以来である。

だが、習の保身行動は年を追うごとに強まっている。曲がりなりにも機能してきた軍の指揮系統を空洞化させ、デジタル監視網を全土に張り巡らせて、いっさいの批判を封じる。

近年は自分が信頼して任に付けたはずの人物を次々と粛清しており、粛正が日常業務のようになっている。これらの異常行動は、習の権力が実は盤石ではないこと、あるいは習自身がそれを盤石ではないと感じていることの証左である。

それにしても、習はいったい何を恐れているのか。

40年、幹部人材を育ててきた元教授の乱

そのヒントを、赤裸々に語った人物が蔡霞(さい・か)氏である。1956年生まれの女性学者で、中国共産党中央党校の元教授だ。

中央党校は党の幹部人材を育成する最高学府であり、習近平も2007~2012年に校長を兼任していた。ここで教鞭を執ることは、党の思想的バックボーンを担う研究者として、党中枢に深く関与することを意味する。約40年にわたってこの機関に身を置いた蔡氏は、いわば「体制の内側で体制を支えてきた人間」だった。

その蔡氏が2020年、私的な会合の場で、習を「マフィアのボス」、中国共産党を「政治的ゾンビ」と呼び、「習近平を解任することが党再生の第一歩だ」と語った。その音声がインターネットに流出し、拡散された。中国共産党は蔡氏に対し、その発言が本人のものかどうかを照会した。蔡氏は「自分のものだ」と認めた。

中共中央党校 蔡霞元教授
中共中央党校 蔡霞元教授(写真=美国之音/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

その代償は大きかった。党籍の剥奪、年金を含む退職後の待遇の取り消し、そして帰国すれば拘束される可能性――。だが蔡氏は、それを承知のうえで、腹をくくってすべてを認めたのである。