習近平が主導権を失いつつある証拠
これらの「真実」が自分のもとに届かないようにする仕組みを、習は10年以上をかけて構築してきた。真実を語る者を排除するほど体制は強固になる。
習体制が強固になるほど、こういった耳の痛い情報は上がらなくなり、真実からは遠ざかる。真実から遠ざかるほど判断が歪み、歪んだ判断により失政を重ねているのである。
2025年10月の二十期四中全会で、中国共産党は恒例の人事公告をおこなったが、その直前に何衛東・苗華ら9人が一斉に党籍を剥奪される異例の事態が起きている。
※益尾知佐子「『玉虫色のコミュニケ』に浮かぶ中国政治の対立軸」(外交Vol. 94 Nov./Dec. 2025)
この動きを、蔡氏は亡命先からの配信番組で分析した。蔡氏によれば、この大粛清は必ずしも習が主導したものではなく、むしろ軍のナンバー2で、制服組だった張又侠が仕掛けた「先手を打つ」政治的反撃だったという。
※万维读者网/Creaders.net「解读四中全会内幕引争议 蔡霞最新回应」(2025年10月27日)
2023年夏のロケット軍汚職摘発以降、習と軍の関係は変質し、「党が軍を動かせず、軍も党を動かせない」恐怖の均衡に陥っていると指摘した。事実、四中全会には本来出席すべき中央委員のうち相当数が姿を見せなかった。
蔡氏はこの公報の印象を「残缺不全(欠けだらけ)」と評し、習が表向き安泰に見えても、実質的な主導権を失いつつあると読み解いた。
実際、習は幼なじみで最も信用していたこの張又侠までも、今年に入って粛正してしまったのである。
「正論で批判する人物」を恐れている
2025年2月、米オープンAIが公表した報告書によれば、中国発とみられる影響力工作が生成AIを使って英語の書き込みを量産し、蔡氏を攻撃したと指摘している。
蔡氏の亡命から数年を経てなお、国家規模のリソースを一人の元教授に振り向ける。それ自体が、習が最も恐れるのが「どれほど脅されても正論をもって誇り高く批判する人物」であることの、何よりの証拠だろう。
腐敗した幹部でも、武装した敵でも、外国からの圧力でもない。中国という国家に忠誠を尽くし、習が中国にとって害になると判断すれば真っ向から批判する。それこそが、習が最も恐れるタイプの人物なのだ。
個人崇拝が強要される社会で「ミスター間違い」と揶揄し、言論封殺が常態化した環境で「自分の発言だ」と胸を張る。その誇りと矜持は、いかなる監視システムも、いかなる粛清も、消し去ることはできない。
習が築き上げた体制は、真実を語る者を排除するほど強固に見える。だが、その強固さは、真実から遠ざかることの裏返しにすぎない。蔡霞という一人の女性学者が映し出したのは、保身の王様が君臨する「ハリボテ帝国」である。

