ラーメン店の看板に添えられた“他店”の名
東京・九段下。日本武道館から徒歩15分ほどの場所に、昼時になると行列ができる煮干しラーメン店がある。「九段 井さい」。
店主の井上翼さんと妻の江里香さんが夫婦で切り盛りする店だ。ラーメンの評判はもちろん、江里香さんのとびきり明るい接客も口コミで広がり、今では遠方から訪れるファンも少なくない。
店の名物は「特上煮干ラーメン」1350円。サラッとしながらも、煮干しの旨みをこれでもかと感じる極上のスープ。引きの美学すら感じる、大人の一杯だ。麺は手もみの自家製麺で、フワモチな食感が特徴でとても美味しい。
この一杯にたどり着くまでに、夫婦がどれほどの道のりを歩いたか。知る者は、まだ多くない。
店の看板には不思議な文字が添えられている。
「& REGISTA」
そこには、この店がここに存在する理由が刻まれている。
だが、その話にたどり着く前に知っておかなければならない。この穏やかな夫婦が、わずか3年前まで「もう終わった」と思うほどの連続閉店と挫折を経験していたことを。
「つじ田」中枢を担った男、“何をやっても成功する”と信じた彼女
翼さんは東京生まれ。北海道出身の両親のもとで育った。若い頃は定職に就かず、さまざまなアルバイトを転々としていた。
「完全にフリーターでした。何をやるかも決まってなくて、とにかく働かなきゃという感じでしたね」
そんな彼が出会ったのが「つじ田」だった。当時はまだ創業間もない時代。アルバイトとして入った翼さんは、そのまま社員となり、店長、マネージャーへと昇進していく。
「最初はラーメン屋をやろうなんて全然思ってなかったんです。ただ働かなきゃいけないと思っていた。でも気づいたらハマっていました」
その後13年間。店舗展開の最前線で走り続け、国内事業の中枢を担う存在になった。
その姿を間近で見ていたのが江里香さんだった。実は彼女も、「つじ田」の関連会社で働いていた。
「周りからずっと聞いていたんですよ。『翼はすごい』『日本の現場を任されている』って。実際に仕事している姿を見ても、この人なら何をやっても成功するんだろうなって思っていました」
成功しか想像できなかった。そう言い切る。
「本当に不安がなかったんです。今思うとヤバいですよね(笑)」



