セブン‐イレブン・ジャパンの全国2万1000店を束ねた「大番頭」がいた。単品管理を武器に、業績の悪いエリアを次々と立て直し、アメリカでも結果を出した。鈴木敏文会長から信頼された男は、なぜ社長になれなかったのか。副社長を最後に退任した野田靜真氏に、フリーライターの村尾信一氏が聞いた――。

鈴木敏文の“最後の弟子”

1973年にセブン‐イレブン・ジャパン(当時ヨークセブン)を創業した鈴木敏文氏は、数々の流通革命を成功させたカリスマ経営者である。社内では“神”と崇拝され、幹部社員であっても軽々しく近づけない独特の距離感があった。その中で鈴木会長(当時)が心を許し、真の意味で評価した幹部は数えるほどしかいない。おそらく野田靜真氏は、鈴木会長から信頼され薫陶を受けた“最後の弟子”と言えるだろう。まさに鈴木イズムの正統継承者である。

インタビューに答えるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問=2018年4月17日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
インタビューに答えるセブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文名誉顧問=2018年4月17日、東京都千代田区

数字の悪い店を立て直す手法

野田氏は西東京ゾーンで見事に数字を立て直した。着任した翌月には、西東京ゾーンの売上前年比は、全国最下位から2位に浮上した。まさに奇跡の改善であった。どのように立て直したか。前編に詳細を記したように、「悪いときは一点突破しかない」と考える。

キーワードは単品管理。単品管理で一点突破して成功体験をつくり、自信を持たせてから他の施策へ広げていく。これが野田氏の常套手段だった。当時の野田氏が業務改革委員会(業革)という幹部会議で発表したケーススタディはこうだった。

【現状分析】「なぜこのエリアは他より悪いのか?」「どのカテゴリーが弱いのか?」「理由は何か?」これを掘り下げていくと、西東京ゾーンは明らかにタバコが弱かった。
【仮説】タバコのような嗜好性の強い商品は、品揃えの幅を広げた店の方が売り上げが伸びていた。これを全店で進めればよいのではないか。
【実施】ここでの一点突破は「タバコの品揃え見直し」だった。アイテム数を拡大し、カウンター後方に設置された専用陳列什器を前面に移動した。
【検証】売り上げ構成比25%のタバコが改善されると売り上げ全体へのインパクトも絶大だった。

野田氏が実践した「現状分析→仮説→実施→検証」のPDCAは、まさに鈴木から叩き込まれた単品管理そのものだった。その後、タバコを起点に取り組みカテゴリーを広げて、個店、地区の売り上げを次々と改善していった。

野田氏は、当時のことをこう回想する。

「別に、タバコじゃなくてもよかったんです。ただ、タバコは即効性があります。負け癖のついた現場に、まずは数字を変えられるという実感と、自信を持たせたかったんです」