厳しい局面で求められた役割

野田氏が副社長を最後に退任した2025年は、2016年以来の波乱の年だった。北米コンビニ大手アリマンタシォン・クシュタールからの買収提案、SNSで批判された「上げ底弁当」など、セブン‐イレブン・ジャパンにはネガティブ報道が過熱した。負の連鎖が覆い、会社は守りに追われた。野田氏は、そんな逆境のときこそ、攻めに転じたかったはずだ。広島で恵方巻に挑んだときのように――。

セブン‐イレブンのナンバー2には特別な意味がある。全国2万1000店の加盟店を預かる総指揮官であり、会社の大番頭だ。だが社長ではない以上、最高執行権限はない。2016年以降、経営環境が難しい局面を迎える中、野田氏はその狭間で葛藤した。ナンバー2という居心地の悪い場所を甘んじて受け入れた。それはきっと、自分を慕う社員や加盟店のためだ。だが、冷めた言い方をすれば、野田氏の求心力を会社に利用されていたとも言える。

実際、野田氏の求心力は、社員時代の筆者が、この目で見ていて日々実感しているものだった。「野田副社長が加盟店を廻る」と情報が流れたら、オーナーたちは一様に身を乗り出し、店を挙げて歓迎する空気が生まれる。本気で野田氏の言葉に耳を傾けたいと思うからだ。

もっとも有能な人間が社長になるとは限らない

社内でも同じだった。FC会議(オペレーション・フィールドカウンセラー[略称OFC]の会議)で「次は野田副社長がお話しされます」とアナウンスされると、社員たちの表情が変わった。内職の手を止め、野田氏の言葉を聞き逃すまいと、真剣な眼差しを向けた。

なぜ、そこまで人を惹きつけるのか。理由は単純である。野田氏は現場を動かし、組織を動かし、数字を変えてきたからだ。その実績を加盟店も社員も知っている。求心力とは肩書ではなく、積み重ねた結果そのものなのだ。

もちろん、野田氏の活躍を快く思わない勢力はあっただろう。それもまた組織の常だ。事実、数字を変えた幹部は、ほかに何人もいた。ただ、野田氏が他のリーダーたちと決定的に違ったのは、徹底して現場の声に耳を傾け、本質に眼を向けたことだ。この点の尋常じゃないこだわりが、野田氏の真骨頂と言えるだろう。

あらためて筆者は強く思う。企業とは、もっとも有能な人間が社長になるとは限らないところだ。むしろ、ナンバー2こそが最強なのではないか――。

野田靜真という人物を間近で見ていると、そう思わずにはいられない。

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