「悪い、あの話、なくなった」

こうして、難攻不落とされた鈴木会長のお膝元西東京ゾーンを見事に攻略したのである。セブン‐イレブン・ジャパンの幹部全員が溜飲を下げた瞬間だった。鈴木氏もきっと眼を細めていたはずだ。

ところがである。会社の人事とは、思いもよらぬ展開を見せるものだ。

西東京ゾーンの任期後半、突然、当時オペレーション本部長兼副社長だった古屋一樹氏から総経理(支社長)として中国出向の内示を受けた。海外となると話は別だ。妻の意向を無視するわけにはいかない。内示を受けたその場で妻に電話をかけ事情を説明すると、意外にも冷静な反応が返ってきた。

「中国? まあしょうがないわね。とりあえず行くわよ」

その言葉に背中を押され、野田氏は覚悟を決めて古屋氏に承諾を伝えた。その場で翌週の辞令が決まった。ところが翌朝、再び古屋氏に呼ばれ、こう告げられる。

「悪い、あの話、なくなった」

意味が分からなかった。

「人生がかかっていますからね。さすがにこのときばかりは、古屋さんに経緯の説明を求めましたよ」

古屋氏によると、井阪隆一氏(当時セブン‐イレブン・ジャパン社長)が人事案を承認し、鈴木氏に報告した途端「野田は駄目だ!」と却下されたという。

「鈴木敏文の最後の弟子」と言われた野田靜真氏。
撮影=プレジデントオンライン編集部
「鈴木敏文の最後の弟子」と言われた野田靜真氏。

中国から一転、アメリカへ

それから3カ月後、再び古屋氏から呼び出され、今度は「アメリカに行ってくれ」とセブン‐イレブン・インク(米国)出向を命じられた。

「中国の一件があったので、にわかには信じられませんでしたね」

疑心暗鬼の野田氏が経緯を尋ねると、「今回は鈴木会長の命令だ」とのことだった。鈴木会長はアメリカをことさら重視していた。セブン‐イレブン・インクを強化し、グローバル戦略の足掛かりにしたい。「アメリカ人に単品管理を説き、現場で実践できるのは野田しかいない」と考えたのである。妻も「アメリカならすぐ行く!」と嬉しそうだった。

だがここでひとつ疑問が湧く。鈴木会長の知らぬところで、なぜ野田氏の中国出向が計画されていたのか。日本のエースを中国に送る必然性は見当たらない。今回のインタビューでこのいきさつを初めて聞いた筆者は、セブン‐イレブン内部に潜む権力闘争の影を感じずにはいられなかった。

ともあれ野田氏はセブン‐イレブン・インク(米国)Excecutive Vice President(以下EVP=副社長格)として渡米することになった。その際、鈴木会長に二つの条件を出している。