先日鬼籍に入ったセブン‐イレブン創業者の鈴木敏文氏は、セブン銀行など斬新なサービスを生み出し、コンビニは世界でも最も注目される業態になった。「本人よりも鈴木氏のことを知っている」と称されたジャーナリストの勝見明氏が鈴木流経営学の真髄を解説する――。
カリスマは写真撮影があまり好きではなかった。
撮影=大沢尚芳
カリスマは写真撮影があまり好きではなかった。

店舗の強さは「仮説・発注」にあり

セブン‐イレブンの創業者、「コンビニの父」と呼ばれた鈴木敏文氏が5月18日逝去された。

日本の代表的コンビニエンスストアチェーンの1店舗あたりの平均日販はセブン‐イレブンが69.9万円に対し、ファミリーマートが58.5万円、ローソンが59.8万円(いずれも2025年度)と、同じコンビニでも10万円以上の開きがある。

競争力の違いは、鈴木氏がセブン‐イレブン・ジャパンの会長兼CEO(最高経営責任者)を2016年に退任した後も、セブン‐イレブンでは鈴木流経営学が継承されていることにある。そこで、故人を追悼する意味で、鈴木さんが残した言葉、すなわち〈名言〉と〈鈴木語録〉をもとに「鈴木流経営学の真髄」を前編・後編に分けて読み解きたい。

前編のテーマは「セブン‐イレブンにおける強さの秘密を解き明かす」だ。

強さの秘密の第1は、店舗における「仮説・発注」にある。

海辺の店で売れるおにぎりの具は何か?

鈴木氏はよく、「海辺のセブン‐イレブンではなぜ、梅おにぎりを発注するのか」という例をあげた。

明日来店する顧客のニーズを予測する情報を「先行情報」と呼ぶ。天気予報はその代表格だ。「明日は週末で絶好の釣り日和」の予報が出ていたとする。昼ごろにはかなり気温が上がりそうだ。この先行情報から、明日は釣り客が朝早くから昼食を求めて来店すると予想される。ここで、釣り客の心理を読んで、明日の売れ筋商品の「仮説」を立てる。

釣りながら食べやすいのはおにぎりで、釣り客の心理を考えると、時間が経っても傷みにくい感じがする「梅おにぎり」はどうか。

この仮説をもとに実行する。梅おにぎりを多めに発注し、フェイス(陳列面)を広く取り、手書きPOPや声かけで釣り客にアピールする。そして、販売の結果をPOS(販売時点情報管理)システムで「検証」する。梅おにぎりの売上げが多ければ、仮説が正しかったことになり、「釣り客の心理を読めば毎回来店してくれる釣り客に満足してもらえる」と学習し、次の仮説に活かす。この「仮説・検証」のサイクルを学生アルバイトにも実行させる。

こうして、単品ごとに「仮説・検証」を繰り返して発注の精度を高め、販売の機会ロスと商品の廃棄ロスを最小化していくことを「単品管理」と呼ぶ。セブン‐イレブンの強みはこの単品管理を徹底することにある。