セブン銀行を生んだブレークスルー思考
〈名言〉過去の延長線上ではなく、一歩先の未来から考える
〈鈴木語録〉
「昨日のお客様」が求めたものを「明日のお客様」に提供してはならない。
過去が今を決めるのではなく未来が今を決める。
過去の延長線上ではなく、目指す未来から現在をかえりみて、今何をすべきかを考える。これを鈴木氏は「ブレークスルー思考」と呼び、現役時代、日々の仕事の中で実践するよう、グループをあげて取り組んだ(図表②)。
未来起点の発想の典型的な例がセブン銀行の設立だろう。
セブン‐イレブンの店舗にATM(現金自動預払機)を設置するため、鈴木氏は流通業として自前の銀行を設立する計画を立案した。流通業による銀行設立は過去に前例がなく、「素人が銀行を始めても失敗する」と金融業界から猛反対された。「賭けにもならない。万一成功したら銀座を逆立ちして歩く」といった揶揄まで聞こえた。
それでも、鈴木氏は「セブン‐イレブンの店舗にATMがあれば、顧客にとって利便性が飛躍的に高まる」と、未来の可能性に目を向けて計画を推進した。
設立する銀行はATMの利用客からの手数料が主な収入源になるため、経営が成り立つには徹底したローコスト経営が必要だった。そこで、従来のATMの4分の1のコストでATMをつくり、困難の壁を突破した。
セブン銀行のATMはセブン‐イレブンの店舗以外にも、今や街の多様な場所に多く設置され、社会的に重要な役割を担うに至った。ブレークスルー思考の成果にほかならなかった。
セブン銀行の設立の経緯が物語るように、鈴木氏は、顧客起点、未来起点の観点から「やるべき価値」があると判断したことは、社内外から反対論が出ても確信をもって実行し、成功させた。セブン‐イレブンの創業、おにぎりや弁当の販売、プライベートブランド(PB)の「セブンプレミアム」のコンビニ、スーパー、百貨店での同一価格による販売など、数限りない。ここから次の名言が生まれた。
〈名言〉みんなが反対することはたいてい成功し、みんなが賛成することはたいてい失敗する。
〈鈴木語録〉
未来から考えて発案したことは過去の経験に縛られた人々から反対される。
しかし、未来の可能性は過去の経験や論理では否定できない。
上品さと手軽さはトレードオフだが…
セブン‐イレブンの強さの秘密の第2は、チームMDによる商品開発にある。
MDはマーチャンダイジング(商品政策、商品化計画)の略。チームMDはメーカーとチームを組んで商品を開発することを意味する。
商品開発において、鈴木氏が特に推進したのが「上質さ」と「手軽さ」を両立させる「トレードオフ戦略」だ。
「上質さ」と「手軽さ」はトレードオフの関係だが、「手軽さ」なら手軽一辺倒ではなくどれだけ「上質さ」をちりばめるか、逆に「上質さ」なら上質一辺倒ではなくどれだけ「手軽さ」をちりばめるかそこに価値が生まれる。
トレードオフ戦略で成功した典型的な例が「セブンプレミアム」と「セブンカフェ」だ。
流通業界のPB商品といえば、従来、「メーカーのナショナルブランド(NB)より安い商品」という位置づけが一般的だった。これに対し、鈴木氏は既存の概念を覆し、NB商品と同等かそれ以上の品質を手ごろな価格で提供するよう指示。セブンプレミアムは大ヒットし、今や年間販売額は約1兆5000億円に達する。年間売上金額10億円を超える商品数は315品目まで拡大している。

