なぜ真冬に冷やし中華が売れるのか
この単品管理では、いかに顧客の心理を読んで、顧客が共感する「仮説」をつくり出し、潜在的ニーズを掘り起こせるかどうかが問われる。そのため、鈴木流の経営は「心理学経営」とも呼ばれた。
この仮説を立てる際、近年注目されているのが顧客体験価値(CX=Customer Experience)という概念だ。商品の価値には物質的・物理的価値(機能、性能など)と心理的・感情的価値がある。食べ物であれば、味のよさは前者だ。一方、顧客がある状況で美味しい食べ物を買って食べるという体験を通して心理的・感情的に感じるのが顧客体験価値だ。
例えば、セブン‐イレブンでは真冬でも少し汗ばむほど暖かい日には「冷やし中華」が売れる。これは冬に冷やし中華を食べる体験に新鮮な価値を感じるからだ。あるいは、週末に1週間仕事で頑張った自分へのごほうびとして、ワンランク上にプライベートブランドであるセブンプレミアムゴールドの食べ物を買う。この「ごほうび消費」も顧客体験価値の典型だ。
顧客体験価値については『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』(プレジデント社 構成担当:勝見明)が詳しいので参照されたい。
ワガママで矛盾するのがお客様の心理
仮説を立てるにはどのような発想が必要なのか。1つ目が「顧客起点」の発想だ。
〈名言〉「お客様のために」ではなく、「お客様の立場で」考える
〈鈴木語録〉
私たちが「お客様のために」と考えるときはたいてい、どこかに「売り手側の都合」が無意識のうちに入っていて、実態はその「押しつけ」になっていたりする。
あるいは、お客様が求めるものについて、自分の過去の経験から、「お客とはこういうものだ」という「決めつけ」が入っていることが多い。
一方、「お客様の立場で」考えたら、自分の過去の経験を否定し、売り手にとって都合の悪いことであっても実行しなければならない。
では、「お客様の立場で」考えるにはどうすればいいのか。
〈鈴木語録〉
誰もが仕事から一歩離れれば、「買い手」になる。「お客様の立場で」考えるとは、自分も持っている「お客としての心理」を呼び起こして考えることです。
私は流通業に携わりながら、販売も仕入れの経験もない。それでも、流通企業のトップを務められたのは、「お客様の立場で」考えることができたからです。
私自身、ワガママで矛盾した「お客としての心理」を持っているからです。
「川モデル」と「井戸モデル」
「顧客のために」と考えるのと「お客の立場で」の立場で考える、その違いについて筆者は前者を「川モデル」、後者を「井戸モデル」と呼んだ(図表①)。
川モデルでは、データや過去の経験から顧客は川の対岸の「ここ」にいると思い込み、ボールを投げるが、その間に顧客はもう先を行っていて届かない。一方、井戸モデルでは、自分の井戸(=自身も持っている客としての心理)を掘り起こすと、それは顧客の井戸(=潜在的ニーズ)の地下水脈を掘り当てることができる。これが「顧客の立場」で考えるということだ。
仮説を立てるときに重要なもう一つの発想、それは「未来起点」の発想だ。


