5月18日、セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問の鈴木敏文さんが亡くなった。100回以上面会し本人から「私以上に私のことを知っている」と評されたジャーナリストの勝見明さんは「最後にお会いしたのが昨年の秋。現経営陣への1つのメッセージを託された」という――。

中国でも「流通の神様」

私は今、中国・瀋陽で、5月18日に逝去された鈴木敏文さんの追悼記を書いている。瀋陽へは講演依頼のためで、テーマはくしくも「鈴木敏文流経営学の真髄~セブン‐イレブンの強さの秘密を読み解く」。主催者は中国全土約150社の流通小売企業が加盟する同業団体だ。

中国では今も、鈴木さんは「流通の神様」としての人気が根強く、私が執筆や構成を担当した「鈴木本」の中国語版はベストセラーとなっている。流通業界の競争が激化するなかで、鈴木流の経営を学びたいという意向が強く、訪日研修団でも私は毎年、講演を依頼されてきた。

2019年「プレジデント誌」の取材に応じる鈴木敏文氏
撮影=大沢尚芳
2019年『プレジデント』誌の取材に応じる鈴木敏文氏

私が中国に訪れたのは22年ぶりで、前回は、2004年4月に北京に進出したセブン‐イレブンの取材が目的だったから、鈴木さんが私と中国を結びつけている感じがする。

この北京取材は、私が書いた鈴木本の第2弾、『鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」』(プレジデント社 2005年)の発刊を記念して、プレジデント誌で鈴木流経営学を特集することになり、その中にセブン‐イレブン北京進出のルポを入れるためだった。

私と鈴木さんの関わりの大半はプレジデント誌が舞台だった。その長い関わりを数々のエピソードとともに振り返ってみたい。

面会回数は100回に及んだ

最初の出会いは2001年9月。プレジデント誌の取材で、当時、セブン‐イレブン・ジャパン(SEJ)会長兼イトーヨーカ堂社長だった鈴木さんの独特の発想を読み解くというテーマだった。

私はその発想法を「陰陽両面的思考」「脱経験的思考」「時間軸を輪切りにする思考」など5つのパターンで捉え、メタ認知で「もう1人の鈴木敏文」が司令塔のように、どの思考で考えればいいかをその都度、即断しているとした。

鈴木さんは、自身について書かれた記事をけっして誉めることはなかったのに、この記事については「初めて誉めた」と側近から聞いた。ここから四半世紀、面会回数は約100回に及ぶ付き合いが始まる。

最初の取材の3カ月後、今度は鈴木流経営学を「統計学」と「心理学」で解析した記事をプレジデント誌で書き、これも鈴木さんは高く評価され、「会社の幹部に読ませたい」と別刷りで9000部の冊子を発注された。

これらの記事を単行本にまとめて翌2002年に出した『鈴木敏文の「統計心理学」』は発売3週間で8万部を超える爆速の売れ行きを見せ、各書店のベストセラーにランクされた。

担当編集者は後に書籍編集部兼書籍販売部部長になる桂木栄一さん(現・編集事業本部副本部長)。桂木さんとは以降、コンビを組んで、「今回はこのテーマで」「今回はまた違うテーマで」と多種多様なテーマで鈴木さんに取材を重ねた。