携帯に見慣れぬ番号から着信

また、康弘氏の取締役就任は、オムニチャネル・プロジェクトの実質的なリーダーであった康弘氏に一定以上の権限を与えたほうがプロジェクトは進むとの経営幹部からの進言によるもので、世襲とは無関係であることも記した。

さらに、鈴木氏は自分のリタイア後のセブン‐イレブンやイトーヨーカ堂の今後のあり方を実験するプロジェクトを立ち上げていたことも示し、それを実現できるかどうかが、退任後の経営陣に問われると結んだ。

記事が出て、すぐのことだ。私の携帯電話に見慣れぬ番号から1本の電話がかかってきた。鈴木さん本人からだった。鈴木さんから直接電話をもらうのも、「ありがとう」と感謝の言葉を聞くのも初めてのことだった。私は感極まって、思わず涙が込み上がるのを止めることができなかった。

最後の面会で託されたメッセージ

このまま鈴木さんを“過去の人”にしてはいけない。私と桂木さんは、退任後も、『わがセブン秘録』『鈴木敏文のCX(顧客体験)入門』といった鈴木本を出し続けた。 

鈴木敏文(著)、勝見明(取材・構成)『わがセブン秘録』(プレジデント社)
鈴木敏文(著)、勝見明(取材・構成)『わがセブン秘録』(プレジデント社)

私が鈴木さんに最後に会ったのは昨2025年秋。実は退任1年前に、私は鈴木さんから発足から10年となるセブン&アイHDの社史の執筆を依頼されていた。これもポスト鈴木の求心力の核として想定していたようだった。しかし、鈴木さんの主導による数々の挑戦を記録し後進に伝える原稿は書き上がったものの、後継の経営トップからストップがかかりお蔵入りとなった。

ただ、依頼者の鈴木さんには原稿を渡しておきたい。積年の思いを叶えてもらったのが最後の面会となった。その折り、鈴木さんは私に1つのメッセージを託した。

「経営で重要なのは“四季を創る”ことである」
「“四季を創る”とは季節ごとに新しいものを生み出すことである」
「それには、常に新しいことに挑戦しなければならない」
「重要なのはトップの存在で、トップ自ら新しいことに挑戦し、社員にも挑戦を求めるメッセージを発信し続けなければならない」

鈴木さん亡き今、このメッセージが現経営陣に届くことを願ってやまない。