※本稿は、白鳥和生『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
「夜回りには欠かせない神商品」
「冬の寒い日は、セコマのホットシェフのカツ丼が身体に沁みるんです。夜回りには欠かせない神商品。お世話になっていない記者はいないと思います」
こう話すのは、札幌で警察取材を担当していた女性記者(28)。朝夜警察幹部を個別に回る「サツ回り」では、氷点下の寒空で数時間待つこともザラだったという。
北海道の冬は長くて寒い。そんな北の大地で生きる人々を支えるコンビニがある。
コンビニエンスストアは米国で生まれた業態だが、1970年代以降、日本では独自の成長を遂げた。商品ではおにぎりをはじめとした惣菜・弁当、各種公共料金の収納代行サービス、共同配送システムなど米国にはない品ぞろえやサービスで「社会のインフラ」と言われるまでになった。
日本にコンビニを定着させた鈴木敏文氏は、コンビニの元祖であるサウスランド社からセブン‐イレブンのマニュアルを手に入れたものの、特別なノウハウがまったく書かれていないことに愕然としたと述懐している。
日本式コンビニが米国のレベルをしのぎ、アジアで広がっている伏線になっているが、それとは一線を画して「欧米に学ぶ」姿勢を明確にしているのが北海道のセイコーマート(社名はセコマ)だ。
他コンビニに先駆けて“会員カード”を導入したワケ
コンビニでは一般的になった会員カード。この取り組みを最初に始めたのが北海道のセイコーマートだというのはあまり知られていない。
セコマの「クラブカード」は2000年6月にスタートした。背景にはPOS(販売時点情報管理)データの限界にあった。多様化する顧客のニーズには誰が買っているという情報がなければ対応できない。そう考えたセコマはいち早く顧客一人ひとりの購買行動を把握するID-POS(顧客属性が紐付いた購買データ)により品ぞろえを決定し、顧客からデータをもらう代わりに割引になるポイントで還元するという仕組みを考えた。
「常連のお客様の反応が薄い。この商品は外そう」――。セコマでは商品の改廃時にこのような会話がなされる。同じ売れ行きの弁当が2つあれば買った客が誰かを判断して継続・廃止を決めているのだ。会員を毎月の購入金額ごとに10段階に区分し、買い上げ上位の得意客が多く支持する商品を優先的に残す。
同じ商品を繰り返し買うリピート客がいるかどうかも重要な判断材料。例えば同じ店で月に1000個売れた商品でも、200人が5個ずつ買っていればリピート客がついていると判断する。1000人が一つずつ買っていた場合はリピート客がいないと判断し、選択を迫られた場合後者の商品を外すといった具合だ。