台風やゲリラ豪雨で川が増水したとき、どのタイミングで避難を決断すればいいのか。2018年の西日本豪雨で家が浸水し、両親と共に避難した病院で30時間孤立状態に置かれた金藤純子さんは「『水が来たら見える』と根拠なく考えていたが、現実はまったく違った」と振り返る。体験談を綴った『今すぐ逃げて!人ごとではない自然災害』(プレジデント社)より、一部を紹介する――。
洪水で冠水した道路を走る車
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しとしと雨だったので平気だと思っていたら…

「避難の判断のために、上流の雨と川の水位情報を見てほしい」という話を聞いて、私は自分が避難の判断を誤っていたことに気づいて恥ずかしくなりました。

私が中学生のときも真備町では大きな洪水があったのです。そのときは、高梁川の土手の結構上のほうまで水位が上昇した記憶があったので、実は西日本豪雨のときに、私は高梁川の土手まで水の様子を見に行ったのです。

ちなみに本当はこういうときは危険なので絶対に見に行ってはいけません。ただ、私の実家は高梁川堤防のすぐ横に建っていて見に行ける場所にあるので……。それで川の様子を見たときに、「なんや、たいしたことない。前回のほうが上がってきていたし」と思ってしまったのです。

さらに、そのときの雨の降り方が、ザーザー降りではなく、しとしととした降り方だったので、恐怖を感じませんでした。朝4時に避難指示のアラームが鳴ったときも、用水路では水位がそれなりに上がっているものの、道路が冠水しているわけではなかったので怖くなかったのです。

現代の私たちは、ヘリコプターやドローン撮影で上空からの遠景で発災現場をニュースで見ることに慣れています。さらに、決壊した場所から、ゴーっという音を立てて水が押し寄せ、家が倒壊したり、激しい流れに巻き込まれて人が何かにしがみついたりしている映像が印象に残っています。

音もなく、「ゆっくり」「ひたひた」水が押し寄せてくる

しかし、実際には、決壊箇所から離れた平地では、水というのは低いほうに低いほうに、蛇がにょろにょろと動くようにサラサラ、サラサラ、流れていくのです。あくまで私の印象ですが、水位は「ゆっくり」「ひたひたと」上昇していきましたし、激流のような音もしませんでした。

皆さんは、災害が発生したときに、リアルタイムで、河川の決壊場所と時間、押し寄せて来る水の先端がどこなのかという情報が届くと思っていませんか? そして、「今、ここまで水が来ています」という実況中継が流れて来るとでも思いませんか?

でも、当然ですがそんなことはありません。こんな勘違いも逃げ遅れの要因になっているのではないでしょうか。

「水が来るのは見える」と私は根拠もなく思い込んでいました。ところが、実際に私たちの肉眼では、せいぜい戸建ての2階から地面を見るくらいの範囲しか見えません。今、大雨が降っているかどうか、用水路や小川の水位が上がっていないか、「いま、ここ」で、目視で危険を判断しています。

だから、経験者でない限り、足元に被害が及ぶまで、危機を察知することができないのではないでしょうか。